友達一人
二年生になって初めての登校日。壁に貼り出されたクラス分けを見て、私は思わず頬が緩ませた。
ジャッカル桑原。私の名前があったクラスにあるその名前。その名前を見つけた途端、心が温かくなった。
私の、唯一の友達の名前。いや、もしかしたら彼は私のことを友達だなんて思っていないかもしれない。でも、こんな私に、この世界で唯一優しく接してくれる人。
「よお、工藤。一緒のクラスだな」
突然肩を叩かれて振り向けば、ニカっと笑った桑原くんがいた。少し離れた場所から丸井くんが私を睨みつけていたけど、私は気づかないフリをする。
「うん! よろしくね!」
私がそう言えば、桑原くんは「こちらこそ」と答えてくれた。
彼がいなかったら、と考えるとゾッとする。きっと彼がいなかったら、私はどうかしてしまっていただろう。もしかしたら、不登校にでもなっていたと思う。桑原くんが心配するから、私はまだ笑っていられる。学校に来れる。この場所に、立っていられる。
彼の友達は皆、私と関わるのをやめろ、と言う。けど、彼はこうして今でも私と関わるのをやめない。私をいつだって気にかけてくれて、励ましてくれた。
「桑原くんって、優しいよね」
私がポツリ、とそう零せば、彼にはしっかりと聞こえていたようで、目をパチクリとした。
「そんなことねえって。それより工藤、桑原くんってのやめろよな。ついこの間まではジャッカル、って呼んでたのに。他人行儀だな」
「いや、だってさ、桑原くん。私のせいでどれだけ桑原くんが損してるかわかってる?」
私は彼等に名前で呼ぶことを拒絶された。だから、桑原くんのことを、ジャッカルだなんて馴れ馴れしく呼ぶことなんて、できなかった。
こうやって、普通に接してくれるだけで幸せだったから。私はこれ以上、望むことなんてできない。
「損ってなんだよ、損って」
「例えばさ、私と喋ってたら桑原くん、他の人とは喋れないじゃん」
「そんなこと、気にするなよ」
私は桑原くんに多大な迷惑をかけている。桑原くんには、感謝してもしきれない。
でも、もう学校で話す人なんて、桑原くんと先生くらいしかいない。頼れる人もいない。だから、いくら迷惑をかけているとわかっていても、私は桑原くんの手を放すことができないんだ。
「……なんで、桑原くんは、私と一緒にいてくれるの?」
以前、勇気を出して直接、桑原くんに一度だけ聞いたことがあった。案の定彼はキョトンとして私を見て。
「工藤といると楽しいからだけど?」
「た、楽しい? いや、まあ、あの、なんで桑原くんは私のことが嫌いじゃないのかなって」
他の人達は皆、私のことを毛嫌いしているのに。
「だって、工藤は悪い奴じゃないだろ。というか、むしろ普通に良い奴じゃん。他の奴らが知らないだけで」
「……どうして。どうして、そう言い切れるの?」
「どうしって言われてもなあ。俺は、お前に嫌なことされたわけでもないし」
「工藤はただ、皆と仲良くなりたかっただけなんだろ?」
彼の言葉がとてつもなく嬉しくって、小さく頷いてありがとう、って私が言えば、桑原くんは微笑んでくれた。
桑原くんは、私のこの世界での唯一の光。だから、絶対に失いたくなんてなかった。
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