嘘だと気づいて欲しかった
新しいクラスでも私はやはり友達が一向に出来ず、馴染めずにいた。私に関する噂は学校中までとはいかなくても、学年の殆どが知っているくらいには広まっていたから。
まあ、どうだっていいよ。どうせみんな中学生だし。私は中学生二回目だから。私は皆と違って、大人だから。なんて言うのは、ただの言い訳。本当は寂しい。友達が、欲しい。
昼食の時だって私を誘ってくれる友達なんていなくて、誰かクラスメートに声をかける勇気もない。桑原くんは、昼食は丸井くんとかと食べているから、一緒にいれない。
だから今日も、いつものように教室で1人寂しく弁当箱を広げることになった。
お昼ご飯を食べ終わり、みんなが仲良く友達同士でお喋りをしている教室にいるのが凄く気まずくて、校舎を1人何の目的もなくブラブラしていれば、運良く階段の踊り場にいる桑原くんを見つけた。
「桑原く、……」
話しかけようとして、桑原くんの隣に丸井くんがいるのを見つけて、やめた。
それも、二人ともなんだか真剣そうな表情をしていたから。
私が聞いちゃいけない、と思い私は二人から背を向けて去ろうとした。なのに、
「なあジャッカル。俺は何度だって言うぜ。工藤と関わるの、やめろよ」
偶然聞こえてしまった丸井くんのその言葉に、思わず足が止まった。
「工藤は良い奴だ。丸井にどうこう言われる筋合いはない」
「俺はジャッカルのこと思って言ってんだ」
聞きたくない、聞いちゃいけない、そう思っても、私の足は一向に動いてくれなくて。
そして次に丸井くんの口から発せられた言葉は、私にとって衝撃的なものだった。
「これ以上、工藤に関わるんだったら、俺、ジャッカルとダブルス組むの、やめるぜ?」
俺、おまえとダブルス組んでるせいで工藤が寄って来られたらたまんねーし。
時が止まったような気がした。
丸井くんが、桑原くんとダブルス組むのを、やめる?
「俺は、本気だ」
いつもおちゃらけたような丸井くんの、真剣な声。頭が真っ白になった。
だめ。そんなの、いけない。
変わってしまう、原作が。それも、私のせいで。
それ以上聞いていられなくて、私はようやく足を動かして、逃げるようにしてその場を去った。
* * * * *
「なんだよ工藤。話って」
その日の放課後、私は桑原くんを裏庭に呼び出した。まるで、告白をする恋する少女のように。けど、実際の用件はそんな甘酸っぱいようなものではなく。
私は周りに誰もいないのを確認して、口を開く。
「ねえ桑原くん。もう、私に関わらないで」
なるべく桑原くんをキッと睨みつけながらキツイ口調で言えば、桑原くんは顔をしかめて、「はあ?」と言った。
ちくり、と胸を刺す痛みには気づかないフリをする。
「桑原くん、もしかして気づいていなかったの? 今まで私が桑原くんと関わっていたのは、テニス部のレギュラー達に好印象を持たせるため。ホントはアンタみたいな奴と関わりたくなかったのよ」
「お、おい、工藤、何言ってんだよ!?」
「なのにアンタと仲良くしても逆に嫌われるだけ。使えない、もうアンタなんか用なしなの」
ごめん、ゴメン。ごめんなさい。こんなの、嘘だよ。本当はこんなこと、これっぽっちも思ってないよ。桑原くんは、私の大切な友達だったんだから。
だけど、一度口から出た言葉は止まってくれなくて。
「もうこれ以上、私に関わらな」
「もう、いい」
桑原くんの口からは驚くほど低い声が出た。それに私はビクリと体を震わせる。恐怖で体が竦みそうになる。でも、
泣いたら、だめ。あと、少し。
「もう、いい。工藤がそんな奴だとは思わなかった。信じてた俺が馬鹿みたいだ。ああ、わかったよ。もう、おまえとは関わらない」
やめて、行かないで。
それが言葉となって桑原くんに届くことはなく、桑原くんは私に背を向けて行ってしまった。その背がだんだんと歪んで見えて、桑原くんのその背がだんだんと遠く、小さくなって、消えていった。彼は、振り返らなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
でも、貴方は優しいから、こうでもしないと私と関わりを絶つなんてことしないでしょ? それじゃあ、困るの。丸井くんと、ダブルスが組めなくなる。原作が、変わる。
それだけは、なんとしてでも防がなきゃいけなかった。
その選択が正しかったのかは、わからない。
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