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生徒会室前で、私は大きく深呼吸をする。大丈夫、落ち着け。合同練習会に参加することを決めたんだ。今からこんなんで、どうするの。
この扉の先には、跡部先輩がいる。そして私は跡部先輩に挨拶をしなきゃいけない。
やっぱり、優奈か沙梨に着いてきてもらえればよかったかも。なんて少し後悔するも、二人は忙しい身なのだからこれくらい私一人でなんとかしなければいけないのだから、と思い直す。
覚悟を決めて扉をノックした。
「失礼します」と声をかけながら扉を開ける。目に入ったのは中学校の生徒会室とは思えないほど豪華な椅子に腰掛け、書類仕事をこなす跡部先輩だった。
「宮崎舞です。えっと、今度あるテニス部の合同練習会の件で」
ああ、と跡部先輩は声を漏らして、書類を見ていた目を私に向けた。
思わず半歩ほど後ろに下がりそうになったが、ぐっと耐える。
跡部先輩は、そういうこと抜きにしても、威圧感だとか、強烈なオーラのようなものを身に纏っている。どうしても、近寄りがたい。
「宮崎の、妹か」
以前に言われたことを、また言われる。
見られていることはわかる。でも、目を合わせるのが怖くて、私は跡部先輩が手にする書類をぼんやりと眺めていた。
「おい、いつまでそんな所にいやがるんだ。こっちに来い」
扉の前から動こうとしなかった私はそう声をかけられ、慌てて跡部先輩の方へ数歩、足を進めた。
心臓が煩いほど嫌な音をたてる。手のひらに汗が滲む。
大丈夫。この人はただの氷帝学園に通う中学3年生。テニス部部長。それ以外の何者でもないんだから。
「これが練習会に関する資料だ。予定されてる練習内容やコーチに来る先生方の名前なんかが乗ってる。後で見とけ。わからないことがあったらおまえの兄に聞け」
そう言って跡部先輩は近づいてきた私にホチキス止めされたプリントを数枚手渡す。
「仕事は基本的に基本的に愛里紗と小野寺の指示に従え。練習会までに最低限のテニスのルールくらいは頭に入れておけよ」
ーーああ、それと。
と、跡部先輩は言葉を続けた。
「おまえ、小野寺の友達なんだってな。宮崎の妹だから大丈夫だとは思うが、俺達に迷惑をかけるなよ」
スッと、頭が冷えた気がした。
ねえ、それは。
「それは、一体どういう意味ですか」
それまでずっと俯き気味だった顔を上げる。
跡部先輩の日本人離れしたアイスブルーの瞳と目が合う。震えたりなんて、しなかった。
「アーン? そのまんまの意味に決まってるだろ。しっかり仕事をしろってことだ」
それじゃあ。それじゃあまるで、沙梨が仕事をしっかりしていないみたいじゃない。
跡部先輩は、部長なのに。部長でも、沙梨の頑張りを見ていないの? 理解できないの?
跡部先輩が美姫愛里紗のことを気に入っていることは知っていた。でも、聡明で、凡人とは違う跡部先輩なら、もしかして、なんて心の奥底で思っていた。願っていた。
失望とか悔しさとか寂しさとか恐怖とか、そんな感情がごちゃ混ぜになる。
じっと跡部先輩の目を見つめても、何の感情も読み取ることはできない。先に目を逸らしたのは、跡部先輩だった。
「用はそれだけだ。他に聞きたいことがないなら、帰れ」
冷たく言い放つ跡部先輩。
私はもうこの部屋に用なんてなかった。
「失礼しました」と声をかけて部屋を出る。
やっぱり、テニス部の人達なんて当てにならない。私達が、私が、沙梨を守らなきゃ。助けなきゃ。沙梨が私に、そうしてくれたように。
跡部先輩から渡されたプリントを見る。自然と、合同練習会で来る他校の名前が目に入る。
私は、息を呑んだ。だって、嫌。行くのが、怖い。でも私は、行かなくちゃ。
そのプリントには、立海と、青学の名前が印字されてあった。
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