09

 沙梨はね、優しい子なんだよ。いつだって部員の事を考えていたし、レギュラーと準レギュラーの分しか面倒を見れないことにいつだって心を痛めていた。
 それなのに、それなのに。
 私や優奈は、なるべく沙梨の近くにずっと一緒にいた。けど、クラスが違うから、ずっとずっと、なんてことはできない。

「ファンクラブの方々からも、小野寺沙梨をマネージャーから辞めさせるべきだ、という声があがっていますの。このままいけば、わたくしの知らない間に……なんてことも十分ありえますわ」

 優奈は難しい顔をして言った。
 マネージャーは、一人で充分。残しておくマネージャーは、優秀なほうがいい。皆、そう思っている。そして、皆の目から優秀なのは、美姫愛里紗だとうつっている。

「いっそのことなら、マネージャー、やめちゃえば良いのに」

 私は思わずそう言ってしまいそうなのを、なんとか耐えた。
 沙梨を疎ましがるような人達に、沙梨というマネージャーなんて必要ない。それで、沙梨がいなくなった後、後悔すればいいんだ。
 でも、きっと沙梨はそんなこと、望んでいない。私達にそう言われることも。

「勿論、沙梨は何を言われようともマネージャーを辞める気はないでしょう。そんなことをすれば、負けたと認める事と同じだ、と言っておりました。それに、真剣にやっていればいつかは皆また認めてくれるはずだ、とも」

 私はやるせなくなって、俯く。

「わたくしは、どんな事になっても沙梨を守ろうと思いますの。たとえ、わたくしがファンクラブ会長の座からおろされたとしても」
「……私も、何があったって、沙梨の味方で、沙梨を守るよ」

 沙梨は、私が辛かった時、私を助けてくれた。だから、私は絶対に、沙梨を守る。



* * * * *




「あのさぁ舞。頼みがあるんだけど」

 夜、もう寝ようかと思った時に私の部屋にやって来た兄はそう口を開いた。

「今度の日曜日にさ、テニス部が氷帝主催の合同練習会があるんだよ」

 少しだけ、嫌な予感がした。

「で、一緒に練習やる他校はマネージャーがいなくて、人手が足りないんだってさ。で、何人か手伝ってくれる人を募集してるんだけど、」

 そこまで言われれば、話が読めてきた。
 つまりは私に、手伝ってほしいと。

 無理。絶対嫌。すぐさまそう思った。
 だって、テニス部のお手伝いだなんて。しかも、合同練習会だって。他校が来るんだって。私が名前も知らない学校が来るのかもしれない。でも、氷帝のことだ。多分、私が名前を知っているような、強い学校だって来るはず。
 平気にはなっていったけど、まだそこまで心の準備はできていない。

「なっ、頼むよ。舞はファンクラブに入ってるわけじゃないから色々安心だし、舞は小野寺とも仲良いんだろ?」

 何かしら理由をつけて断ろうと思ってた。でも、兄の言葉に沙梨の存在を思い出す。
 沙梨。もし沙梨が、合同練習会で何か酷いことをされたら?
 いつもの部活とは違うのだ。忙しい。他校の人もいる。そんな中で、何かが起こるかもしれない。そうなった時、誰が沙梨を守るのだろう。皆が美姫愛里紗を見ている中、誰が沙梨の味方になってくれるのだろう。

「舞?」

 何も答えない私を怪訝に思ったのか、兄が私の名前を呼ぶ。
 嫌だ。行きたくない。彼等とこれ以上、関わりたくない。
 心がそう叫ぶ。けど、沙梨は? 沙梨は、一人ぼっち。でも私がこの誘いに頷けば、一人ぼっちにはならない。私に何ができるとかはないけれど、弱った沙梨の傍にいてあげることはできる。
 私は少しでも沙梨の、力になりたい。

「ーーいいよ。やる」

 私がそう答えれば、「ホントか!? ありがと!!」と兄は嬉しそうに礼を言った。
 大丈夫。だって、彼等はただの人間だもの。私は、ただ沙梨を守るだけ。

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