12
月日はあっという間に流れてしまうもので、ついに合同練習会の日を迎えた。
「おはよう、舞ちゃん」
集合場所である学校に行けば、先に着いていた沙梨が声をかけてくれる。私もおはよう、と返した。
既に集まっていた何人かは警戒と好奇の入り混じった目で私を見る。その多くの鋭い視線に私は慄いた。
その中で一人、私に近づいて来る。
「あなたがお手伝いの宮崎さん? あたし、美姫愛里紗。今日一日、よろしくね」
鈴を転がしたような高い声。屈託のない笑顔。
至近距離で見れば、確かに美人で、愛くるしい顔をしている。でもそれは、そう、まるで、人形みたいな。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私が頭を下げればそれはもう嬉しそうに「うん!」と美姫先輩は頷いた。
多分、悪い人じゃない。明るくて親しみやすい。
けど、彼女が跡部先輩だとか忍足先輩だとかと楽しそうに喋っているのを見ていると、そうじゃないでしょ、と言いたくなる。
美姫先輩は、誰にでも平等に見えて、違う。もちろん、テニス部じゃない人や私にも優しくしてくれる。けど、漫画に出てくる彼等に対しては、どこか違うのだ。
「他校の人達と、仲良くなれるかなあ?」
「アーン? 仲良くなれないことはねぇだろうがあんま近づくんじゃねえぞ」
「どうして?」
「ハッ、自分で考えろよ」
本当に幸せそうな笑顔。彼等のことが大好きなんだという気持ちが伝わってくる。でも、私は思うのだ。
どうして美姫先輩は、彼等のことを好きなのだろう。
結局、美姫先輩は、世界が自分を中心に回っていると思っている。この世界の主人公は自分なのだと、無意識のうちに思っているのだ。
だからこそ、彼女は沙梨を傷つける。そして、傷つけていることには気づかない。
次々と集まる部員達。こうして見ていれば、痛いほどよくわかる。
皆、美姫愛里紗を見れば輝くほどの笑顔を向けて挨拶をするのに、沙梨を見た途端、その表情は歪められる。沙梨から挨拶をしなければ、彼等は沙梨に声をかけることすらしない。そんな彼等の様子にじっと耐える沙梨を見ていられなかった。
「おはよう、宮崎さん」
「お、鳳くん、おはよう」
集合場所に来た鳳くんが声をかけてくれる。私は少し驚きながらも言葉を返す。
「おはよう、鳳くん」
すぐ近くにいた沙梨も鳳くんに声をかける。けど、
「……おはよう」
返ってきたのは酷く冷たい声だった。さっき私にかけたような爽やかで弾むような声じゃなくて、素っ気ない声。
鳳くんは、これ以上話したくないとばかりに私達から離れて違うテニス部の人達の元へ向かう。
沙梨を見れば、そんな鳳くんの様子に悲しそうな、傷ついたような表情をしていた。
「沙梨」
鳳くんと沙梨が仲が悪いなんて聞いたことがない。二人が喋っているのを見かけたことがある。
でも、どうして鳳くんは沙梨のことをそんな目で見るの? 全部全部、誤解なのに。
全ては、美姫愛里紗が来てから。
「っ、舞ちゃんと鳳くんが喋っているの、私初めて見た! 仲良くなったの?」
先程までの表情なんてなかったかのように沙梨が笑顔で言う。でもそれはどう見たって無理矢理作ったようにしか見えなくて。
「喋ったって、ただの挨拶だよ。同じクラスだし。ねぇ、沙梨」
「舞ちゃん、もう集合みたいだよ。行こう」
大丈夫? そう聞こうとした。けど、跡部先輩の集合を呼びかける声と、沙梨の言葉によってそれは遮られる。
言い知れぬ不安が私の胸を渦巻いた。
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