13

 視界に入るのは、山吹色のジャージ。そして──青と、白のジャージ。

 立海、青学、氷帝の3校で行われる合同練習会。関東の強豪校を集めた、といったところだろうか。

「うわぁ、チョー可愛い女の子いるじゃん! ねえねえ、君名前なんて言うの?」
「えっ、あたし!?」
「おい英二! 着いて早々勝手な行動するんじゃない!」
「えー、良いじゃん。俺、青学の菊丸英二って言うんだ。君は氷帝のマネージャー?」
「うん。美姫愛里紗です。よろしくね!」

 早速彼等と美姫愛里紗が喋っているのが自然と耳に入る。
 気持ち、悪い。
 混ざってはいけないものが混ざってしまった感覚。不協和音にしか聞こえない声。私は、もう、

「舞ちゃん、大丈夫?」

 その声に私は現実に引き戻された。
 心配そうに私の顔を覗き込む沙梨。そうだ、ここは現実。そして私には、やらなければいけないことがあるのだから。



* * * * *




 スコアをつけたり、ボールを拾ったり、タイムを測ったり、ドリンクを作ったり、怪我人の治療をしたり、マネージャーのやる仕事は沢山ある。
 沙梨は黙々と仕事をこなしていて、美姫先輩も、仕事はしっかりこすものの、順調に他校生と仲良くなっているようだった。

「愛里紗! 俺の天才的妙技、ちゃーんと見とけよぃ」
「うん、もちろん見てるね」
「愛里紗さん、さっきの俺のダンクスマッシュ、どうだったっスか?」
「すっごくかっこ良かったよ、桃城くん!」
「愛里紗、こっちにドリンクくれぜよ。喉が乾いたナリ」
「りょうかーい! ちょっと待ってね、今行く」

 パタパタと笑顔を振り撒きながら仕事をこなす美姫先輩。一見、真面目で、明るいマネージャーにしか見えない。美姫先輩が本当にこの世界の人間ならば、沙梨の存在がこの部活になければ、私が前世の記憶など持っていなかったら。そう思っていた。でも、違うのだ。
 何故、同じことを、いや、それ以上のことをやっている沙梨は、お礼も言われないで、ただ黙って仕事をしなくてはいけないのだろう。
 それは、異常な空間だった。
 沙梨を疎ましく思っているのは氷帝のテニス部だけだ。でも、立海も、青学も、沙梨よりも美姫先輩の方に揃って好意を見せているのが見てとれた。

 美姫愛里紗は美少女だ。沙梨も十分可愛い部類には入るが、美姫愛里紗には及ばない。加えて、明るく、溌剌で、社交的な性格。マネージャーの仕事だってきちんとする。それでいて、微かに見え隠れする、テニス部への好意。
 そんな理想的な女の子がいて、好きにならないわけがない。好意を寄せないわけがない。視界が全て美姫愛里紗に奪われる。ついつい目で追ってしまう。彼女の頑張る姿に、思わず笑みを零してしまう。
 だから、沙梨のことなど誰も気にしない。
 マネージャーは、一人で十分。

 やっぱり、この練習会に参加してよかったかもしれない。こんなのに一人で参加していたら、鬱にでもなってしまいそうだ。
 いや、でも沙梨はこれと似たような状況を、毎日のように味わっているのか。それを考えると、胸が苦しい。

 今日は氷帝の人達は、美姫先輩が他校の人達の方へ行ってしまうのではないかとヒヤヒヤしているようで、沙梨のことがいつも以上に目に入らないようだった。おかげで、沙梨は今日は比較的冷たい目で見られることが、少ないようだった。
 今日は、何か特別悪いことがおこるようなことはなさそうだ。そのことにはとりあえず安堵する。
 でもやっぱり、こんな状態の中にい続ければきっと、沙梨は、いつか壊れてしまう。

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