01
待ちに待った中学の入学式。校舎のあまりの豪華さに圧倒される。前の世では公立の中学校に通っていたから、なおさら。
そう、私は前世の記憶を持っている。こんなことを誰かに言ったら、頭がおかしくなったとしか思われるから、誰にも言ったことはないけど。でも、事実だ。
普通の女の子だった。平凡で、そこら辺にいるような。
それが、突然死んでしまった。トラックに轢かれて。
気がつけば赤ん坊になっていて、新しい人生を歩むことになっていた。
最初は大いに戸惑った。
前世とは容姿が違う。名前も違う。何もわからない世界。何故、私は前世の記憶を持っているのか。
だが月日と共に私はこの現実を徐々に受け入れられるようになっていった。そして今日、私はようやく中学生になる。
ただ、気がかりなことがあった。
私の通う中学校の名前は、氷帝学園だ。
私には1つ年上の兄が一人いるのだが、彼も昨年からこの学校に通っている。そして兄は氷帝で、テニス部に入った。
たまに兄との会話の中に出てくる“跡部”とか、“向日”とか、“宍戸”とか、聞き覚えのある名前。テニス部で、兄と同学年の人達の名前。その名前を聞くたびに何度もたまたま、偶然だと自分に言い聞かせた。
氷帝に入学するのが嫌だった。だから私は何度も両親に公立の中学校が良い、と言ったのに「お金のことは気にしなくて良いのよ!」と見当違いな言葉が返ってくるばかり。わざと受験に落ちることも考えたが、塾にまで通わせてくれる親を裏切ることなんてできなかった。
だって、こんなことはありえない。偶然だから、きっと大丈夫。そう無理矢理信じ込んだ。
そしてついにやって来てしまった、氷帝の入学式。
真新しい制服に身を包みながら私は椅子に座っていた。普通ならばここで新しい友達ができるのか、苛められないか、など不安や期待で胸がドキドキしそうなもの。だけれども生憎私は中学校の入学式は二回目。そして嫌な予感しかせず、そんなことを思っている暇はなかった。
「生徒会長からの挨拶の言葉」
そんな私の心の葛藤はよそに、式は進んで行く。そして式の途中、司会の人にそう言われて一人の男子生徒が立ち上がり、舞台へと上がっていった。途端、右隣の席の女の子は「キャーッ、跡部様よーッ!」と叫び、後方のほうからも「跡部様、素敵ィー!」というような耳をつんざくような悲鳴に似た声があちこちから放たれた。っていうか入学式なのにこんなに皆叫んでもいいのか、本当に疑問である。なんか親とかからクレームつけられないのだろうか。子供のこんな姿を見て親は失望しないのだろうか。
だが、私は舞台に上がった男子生徒を見た途端、思わず私は息を止めた。
中学生とは思えない風貌。あの泣き黒子。
跡部、跡部。氷帝。跡部だ。跡部、景吾。本物、の。
何かの間違い? そうであってほしい。何度も瞬きをするが現実は変わらない。氷帝で跡部景吾。そして、漫画で幾度なく見たあの容姿。兄が、テニス部。聞き覚えのある名前。嫌な予感はずっとしていた。けど、気づかないフリをしていた。
今まではめようともしてこなかったパズルのようにピースがはまっていく。間違いようがない。もう今までのように、気づかないフリも、誤魔化すこともできない。つまり、ここは、
“テニスの王子様”の世界。
彼は舞台に立ち、私たちを上から見回すと、手を大きく上に上げて、パチン、と指を鳴らした。途端、またあの耳をつんざくような声、というか奇声があちこちから放たれた。
私は辺りから聞こえる叫び声を聞き流しながら、ここは“テニスの王子様”の世界なんだということを認識した。
体が自然と震えてくる。それは果たして歓喜からか。それとも、恐怖からか。跡部景吾から、目を離すことができない。
彼が何かを喋っている。何も、わからない。ただ、呆然と見つめることしかできない。
ふと、彼がこちらを見た気がした。鋭い視線が私を射抜く。震えが大きくなる。寒い、嫌だ、怖い。
それ以上、彼を見ていることはできなかった。
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