とりあえずカフェへ

 ピカチュウさんがお疲れなようなので、とりあえずカフェに入る。ライムシティではどの店舗もポケモン同伴が極一般的なのがありがたい。


 カフェは明るい雰囲気のお店で、店内にはゆったりとしたジャズが流れている。温かい暖色系の照明が心地いい。大小様々な観葉植物が飾られ、ナチュラルテイストな雑貨で統一されているようだ。特別混んでいるわけでもないが、客が少なすぎるわけでもない。これなら目の前のポケモンとこっそり会話していても大丈夫そうだ。総合的に好ましい店だ。



 赤い布張りの椅子が向かい合わせで置かれている壁側の席に通され、私はキャラメルマキアート、ピカチュウさんはブレンドコーヒーを注文した。私はポケモン用のドリンクを進めようとしたのだが、彼は提案を断りコーヒーを選んだ。
 ポケモンがコーヒーを好んで飲むとは驚きだった。カフェインを摂って平気なのかと不安になったが、当の本人はちいさな両手でデミタスカップを持ち上げ、満足そうにブレンドを啜っている。


「そんな甘そうなの、よく飲めるな」

 私のキャラメルマキアートを見てチロリと舌を出す。

「私はどちらかというと紅茶派なので……苦いのはちょっと」
「コーヒーってのは、苦味の中の酸味が良いんじゃないか。おばさんパンツの割に味覚はガキンチョだな」
「うわ。セクハラだ」


 このピカチュウ、顔は可愛いのに中身がまるっきり中年男性のようだ。なんだか頭が混乱してしまう。


「どうして人間の言葉を話せるの?」


 一番の疑問を尋ねる。そもそもポケモンは喋らない。
大昔の伝承などでは存在したという話も聞いたことがあるが、現代社会ではまずありえない。もしも存在すれば今頃はテレビ局に引っ張りだこだろう。


「さあな。オレにもわからない。ていうかオネーチャンにしか伝わってないみたいだし」
「ええっ」
「あんたが初めてだー!って言ったろ。……コーヒーおかわりしてもいい?」


 カップを高く持ち上げて最後の一滴まで飲み干そうとする。このピカチュウさんは、どうやらよっぽどコーヒーが好きらしい。

同じ物を注文し、数分後店員の可愛い女の子がブレンドを運んできた。


「おいカワイコちゃん。オレの話してることわかるか?」
「わあ、お客様のピカチュウちゃん、とっても可愛いですね」
「な?アンタにしか伝わらないんだって」


 皮肉そうに、だけどたいへん可愛らしく笑みを浮かべる。どうやら本当に伝わっていないらしい。もしくは悪質なドッキリ?私は引き攣った顔でなんとか笑みを浮かべ「ありがとうございます*……」と返すほかなかった。



 ウエイトレスが去ったあと、すかさずピカチュウさんに向かって「これって店ぐるみのドッキリですか?」と尋ねる。



「ちがうって! なあ。もうこれは運命なんだよ」
「いやいやいやいや…………」
「言葉が通じたってわかった瞬間、オレもうピーンと来ちゃったもんね」
「ないないないない……ナイです」


「オレじゃ不満か?こんなに可愛いピカチュウだぞ」


 モフモフとした可愛い顔でテーブル越しに迫られる。



「言葉の通じるアンタにしか頼めない。助けてほしいんだ」
「なにを助けてほしいんですか」
「オレのパートナを見つけてほしい」



 被っていた帽子を脱ぎ、手渡された。帽子の内側には ”見つけた方はハリー・グッドマンまで” と住所が書かれた布が縫い付けられていた。


「あなた迷子なの?」
「いや、オレは……記憶喪失だ」
「…………はああ」



 今日は本当に驚くことばかりである。私は帽子をピカチュウへと返し、すっかりぬるくなってしまったキャラメルマキアートを一口飲んだ。甘い。冷めたぶんさらに甘くて、たくさんある不安がすこし解けた気がした。



「わかった。いいよ。協力する」



 潤んだまあるい瞳で見つめられて、了解してしまった。
だって、もし私ががこの子の立場だったら、きっと不安で死んでしまうと思ったからだ。






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