気持ちは空回り



十五日になった。俺にとっては二回目の十五日。その日も朝から名前のところに行って、二人で原因がお祭りにあるんじゃないかって話したり、図書館に行って、そういう文献がないか調べたりしていた。アスファルトがゆらゆらと揺れる暑さの中で、溶けそうなアイスを頬張って、どうにか出来ないかと考える。
さっき図書館にあったボロボロの黒魔術の怪しい本とか神話的な話とか民話的なやつとか、なんとかそういうのないかって調べたけど、成果はなかった。神隠しとか龍伝説とかとは違うし、むしろ時間の流れに逆らってるのから考えると近いのは浦島太郎伝説かなって思った。結局あれも時間遅れの方かなと思ったし、ほんまに収穫なし。神様にコンタクトとる方法とかもあったけど、そもそも原因が神様なのかもわからん。


「図書館で読んでも何も分からへん」

「儀式とかは私も最初の方に試したけど、何も効果はなかったなぁ……」

「……神社、行ってみる?」

「……いいの?」

「いいも何もお祭り行ってたかもしれんのやろ?」


そっか、と呟いて、名前は行く!と頷いた。もしかしたら、最初の死のトラウマあるんちゃうかなって思ったけど、それは無いらしい。もう10回も死んでるから慣れたってのあるんかな……。そんなこと、ないか。


時計の針が重なった。太陽がてっぺんに来る時間。名前の死まで、あと六時間。



神社はまだ人が少なくまばらで、屋台も営業していないようだった。さわさわと風が木々を揺らしとった。蝉の鳴き声がうるさいのに、妙な静けさがあった。時間がゆっくりと流れているような感覚。
名前は難しい顔をしてまっすぐ一点を見ていた。ふと目をそらして、俺の服を握って、うつむいた。
せや、名前、これから死ぬんや。不安じゃないわけない。しかも、もしかしたら最期だったかもしれない場所に連れてくるなんて、配慮足らんかった。


「……忠義」

「……帰ろか」


今まで、ずっと一人で死んできたんやな。それでようやく俺っていう理解者が出来たのに、不安煽るようなことしたらあかんよな。死なせないことが第一やけど、まずは名前安心させな。


「名前、手ぇつなご」

「えっ」

「ほら、行こ。っしゃ、俺ん家来いや! ゲームやるで!」


暑い日差しの中、名前の焼けていない肌を包んで、引っ張っていく。いっつも亮ちゃんの仕事やったから、俺からやったの初めてや。じりじりこっちを焼き尽くそうとする太陽が暑くて、どんどん気温が上がっていくのがわかる。繋がれた手は二人の体温が反応しあって熱い。名前は暑いのが嫌いだから、夏に引っ付かれるのが嫌いやった。多分、今もそう。でも、何も言わないってことはこのまま俺の家まで行ってもええんよね。心の中で勝手に承諾をもらった気になって、俺たちは下り坂を進んでいった。



────



気がつけば夕方になっていた。家に入る時、おかんもおとんもいないって言うと、名前は一瞬固まったけど、何もせぇへんよ、幼馴染やろ、と言ったら納得したのか普通に部屋に上がってきた。なんか腑に落ちん。
やる事もないし、漫画読んだりゲームしたり。刻々と迫る時間のことを気にしていないふりして、いつも通りを振る舞う。それも、十八時迫る十五分になって途切れた。


「……死ぬって痛いんやな」

「え?」

「私な、死ぬなら絶対老衰がええなって思う。だって、痛いし、苦しいねん。どんどん息できなくなってきて……意識がなくなる時はええねん。でも、じわじわ意識がある時って、まだ生きてるんやって思うから、死にたないって思っちゃう。死んじゃうのにな〜」


諦めたように笑う名前を見て、ずきっと胸が痛くなった。笑って欲しいけど、こんな風に笑って欲しくない。


「……死なせへんよ、死なせへん」

「……何も成果なかったのに?」

「! ……もしかしたら、俺がいるからなんか変わるかもしれんやろ」


外の光があったから、電気の点いてない部屋は今や影に覆われている。ゲームしとったから気付かんかったけど、もう結構暗くなってたんや。前回の十五日を思い出す。


「……ごめん。せやな。私がうじうじしてても、ダメやな」

「名前、大丈夫やから……」


気丈に振る舞っていても、かたかたと震えだす肩。あの時、黄昏時の話をしてたのは、精一杯の強がりやったんかなって今思った。ほんまは、ずっと一人でこの時間を迎えた時、寂しくて寂しくてたまらんかったんやないかな。
ぎゅっと、名前を抱きしめる。何か起こるら、俺も巻き添えや。そしたら、終わるやろ。


「忠義、離して」

「嫌や」

「嫌やない。巻き込んじゃう」

「嫌や。あんなのもう見たない。一人にせえへん」


俺はずるい。一人にしないからって言うのは建前で、ほんまは俺が一人になりたなかった。残されるのは嫌やった。


体感時間ではもうずっと長いことこうしてるようだった。それでも恐怖でじっと動かない名前は俺の胸の中で何を思っとるんやろう。予測された死って、どんだけ怖いんやろう。


「っ!」


突然、名前がびくっと動いた。喉元に手をやって、必死に口をパクパクと動かしている。時計は十八時を示していた。


「名前!」


呼吸が出来ないのか、名前は涙を流しながら、ぎゅっと俺を弱々しく握った。どうしようどうしようどうしようどうしよう。何もわからんくて、俺はただおろおろしてるだけやった。唇が紫色になっていく。ああもう、あかん、どうしよう。俺、助けるって言うたのに。どうしようもないやん、こんなの。どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。嫌や、嫌や、死なんといて、いかんといて。


「名前……!」


ばったりと名前が崩れ落ちる。それと同時に俺の意識も何かにぷっつんとさせられたように、目の前が黒に染まっていった。