たのもしい先輩




「おはよ……うわぁ!? 大倉、その顔どぉしたん!?」

「わ、腫れとるで! 冷やさな……俺、保健室行ってくる!」


ヤスとマルがスタジオに入ってきて、最初に俺の顔を見て大声をあげた。マルは一旦スタジオの外に出てったけど、あかん!保健室どこかわからへん!って、ヤスに尋ねてた。平気やで、って言うと、あかん!ってもっと大きな声で怒られた。


「はよぉ……うわあ…、大倉どうしたん、それ」

「ほんまや! 真っ赤っけやんけ!」


ヒナちゃんも俺の顔を指差して、なんか冷やすもん!ってマルより大きな声で言うから、ヤスが今とってきてるよ〜って優しい声で言った。


「……あれ、亮は?」

「あれ、そういやそうやな。どしたん?」

「……あー…、わからへん」


心の中でごめん、と呟いて嘘をつく。上手い理由なんて思いつかんくて、曖昧にごまかす。亮ちゃんとこんな喧嘩なんて初めてで、どうしたらええかわからんかった。


「……大倉」

「ん? なにぃ?」

「ちょっと外行こうや」

「……練習始まるで」

「ええから」

「……わかった」


横山くんが頬を冷やす俺のそばに寄ってきて、言ってきた。すばるくんに今日は個人練習にしてって言って、ヒナちゃんも大丈夫やでって明るく言ってくれた。それが、ちょっと助かった気がした。


横山くんは大学の空き教室に俺を先に入れた。電気をつけて、てきとーなところに座る。横山くんはこの部屋暑いわと言って、クーラーをつけた。微妙に涼しい風が、上から吹いてくる。


「……亮と何かあったか?」

「……えっ」

「なんとなく分かるわ。何かあったんやろ?」


鋭い。こういうとこ、あなどれん。横山くんは誕生日とかでも一番年上。だから、いつも俺たちのことよく見てくれてるお兄ちゃん的存在や。クールだし、かと思えば1番子供っぽいし、つかみどころの無い人やけど、俺らのこと引っ張ってくれる。照れ屋だから褒めるってことが苦手なのかあんま言わんけど、こういうなんかあったときは一番に察してくれる。


「……なんも無いで」

「嘘下手か。顔腫れてる。殴られたんか」

「……ちょっと」

「お前ら、喧嘩するんやな。どっくん来ないのもそのせいか……」

「……ごめん」


ええよ、と言って、横山くんはスマホで何かを打ち込んだ。誰かにラインしてるのかな。亮ちゃんのとこに連絡入れてるんかな。

仲直りせぇ、って言うんかな。


「で、何があったん?」

「……」

「話せへんの?」

「……言って、信じてもらえる話やない」

「それは俺が決めることや」


横山くんはドカッと向かいに座った。この夏の季節なのに肌が白い。焼けることあるんかな。横山くんのこと見てると、なんだか安心してきて、話してみようかなって気分になった。ほんまはあかんって思ってる。でも、亮ちゃんに言って、真正面から否定された今、誰かに話を聞いて欲しかった。これ、ちょっとしたヘルプサインなんや。色々、限界なんや。


「……あのな、俺、幼馴染がいるん──」




話し終わった後、横山くんはぽかーんと口をアホみたいに開けていた。さすがの横山くんでも理解が追い付かんのか、さっきからはてなマークを頭の上にぽんぽん出しとる。


「……たいむりーぷって、何やねん」

「あーそっから」


そっからは横山くんに丁寧に一個一個説明。横山くん、ちゃんと聞いてくれるのが嬉しなって、俺は今までのこと全部話した。横山くんも理解したとき、お前、何回前のお前なんや!とよく分からないことを言われた。


「でも、横山くんが信じてくれるなんて、思ってもなかった」

「いや、まぁ……信じる信じないもよぉわからん。非科学的やしな。……でも、大倉が切羽詰まってるようやったし、放っておけへんやろ」


この人、めっちゃ器でかい。
一個上で親しみやすいしおもろい人やなぁ思ってたけど、そこにさらに尊敬が加わる。いや、別に尊敬してなかったわけちゃうけど、ここまでの人とは思わへんかった。すばるくんも、ヒナちゃんもこんな感じなんかなぁ。


「でもな、どっくんに言った説明は説明不足やったと思うで。今みたいに落ち着いて話せばよかったやろ。焦ってたとは思うけどな」

「……うん」

「どっくんに殴られるのもわかるで。見たらわかるって、名前ちゃんが死ぬこと容認しとるみたいやんけ。一回見たら死ぬのわかるって? お前、名前が死なないようにしたいんやなかったん?」

「……あ、」


確かに、横山くんの言う通りや。熱くなって、亮ちゃんに見たらわかるって言った。それは亮ちゃんの目の前で名前を見殺しにすること。そんで次のループに入っていくこと。そうすることで亮ちゃんに理解してもらおうとしてた。亮ちゃんなら俺がおかしいのわかってちゃんと聞いてくれたやろに。亮ちゃんならわかってくれるって勝手に自信持ってちゃんと説明する事怠って、結果これや。
最低、や。


「どっくん、それが嫌やったんやろ」

「……せやな。謝る」

「まあ、熱くなっとるやろうし、もうちょい待ちぃや」


横山くんは項垂れる俺の頭をぽんっと撫でた。


「……でも、そうやな。ループ……。大倉、名前ちゃんって今どこにおるん?」

「えっ? えっと、家、やない?」

「よし、今から行くか。連絡入れてくれ」

「えっ、な、なんで? 横山くん?」


先に教室から出て行こうとする横山くんの後を慌てて追う。横山くんはニヤッと笑った。


「ここまで知ったんや。俺も協力する」