不透明な確信は



「やっぱり、亮ちゃんに言おう」


名前の家に着いて、部屋に入ってすぐに名前にそう告げた。名前は瞳を揺らして、そっと目線を下に向けた。


「亮ちゃん巻き込むの嫌やとかあると思うけど、もう俺らじゃどうしようもないやん。亮ちゃん大切なのもわかるし、俺やって亮ちゃん巻き込むの嫌や、でも……な?」

「…………言ったって、信じてもらえへんから。言ったら、あかんよ」

「なんでや! もうどうしようもできひんから……それに、死ぬときは一緒におらんなら……」

「……だって、忠義、おかしなったって言われるで? そんなん嫌や」

「そんな、こと……」


否定はできひんかった。
俺やって、あのとき遊園地に誘われるんやなくて、死ぬってカミングアウトされてたら信じられんかったと思う。
でも──


「でも、俺と名前が言ったら、信用してくれると思う。……俺、ほんまに名前と生きて十五日乗り越えたいねん。絶対死なせたない」

「……忠義…」


名前は渋々といったように頷いた。でも私は言わんよ、と、窓の外を見ながら言った。いつも九日は快晴や。



────



次の日。十日は俺と名前がタイムリープしてから初めて他の知り合いに会う日。
亮ちゃんはいつも通り俺を祭りに誘ってきた。予定があるというと、亮ちゃんは残念そうに眉を下げた。いつも一緒に行っとるやんかー、いい子でもおるん? その言葉に返事しない俺を不審に思ったのか、亮ちゃんは心配そうに俺のこと覗き込んできた。


「大倉? 具合悪いん?」

「……いや、具合は悪ないんやけど、」


はぐらかしてもあかん。亮ちゃんに言うって決めたやん。深く呼吸をして、ドキドキと波打つ心臓を鎮める。亮ちゃんは信じてくれる。曖昧やけど確信してた自信があった。
言おうとした瞬間に、ここが駅だって気付いた。こんなとこで言う話やない。喧騒の中で言ってしまったら、何かに飲み込まれてまう気がして、何がなんだかわからないという亮ちゃんを路地裏まで連れてきた。一変、静かな空間。ビルとビルの間の影が夏の暑さを忘れさせてくれる。でも、俺は緊張で体が熱い。


「亮ちゃん、あんな」

「お、おん……」


亮ちゃんは只ならぬ雰囲気の俺のことを不思議そうに見ていた。


「……名前が、死んだらどうする?」

「…………は?」


きょとんとした顔が次第に険しくなっていく。どういう意図で言っとんのか、探ってるかんじ。次の言葉が出てこない俺に業を煮やして、亮ちゃんが口を開いた。


「大倉、何言うとんねん」

「……」

「なぁ」

「……」

「冗談やろ?」

「……冗談、じゃ、……ないで」


ようやく出た俺の言葉に反応して、亮ちゃんが胸ぐらを掴んできた。ドンッと壁に背中が当たる。いった……。


「お前……っ! なんやねん! 名前が死ぬとか、そんなテキトーなこと冗談でもきついで! なあ! 言って良いことと悪いことぐらい分かるやろ!!」

「……冗談やない。本気や。八月十五日の十八時に、名前は死ぬ。死んで……」

「嘘や……」

「嘘やない! 一回見ればわかる!」

「っ! っざけんな!」


声と同時に左頬に痛みが走った。視界が亮ちゃんから無理やり離される。
殴られた……? 亮ちゃんに……?
ジンジンと後から痛みがやって来る。
いた、なに、これ……。


「お前がそんなこと言うなんて思わへんった」

「まっ、亮ちゃん、ちゃう……聞いて……」

「聞きたない!」


亮ちゃんは俺の顔なんか見たくもないといったように大通りまでの道を歩いて行った。最後に俺の方をくるっと振り向いて、小さく言った。ほんまに小さな声やったのに、嫌に大きな声で聞こえた。




「……最低や…」