目が覚めたら

私はただ単に、好きな人に幸せになってほしかっただけなのだ。

なのになぜ、そんな簡単なひとつの願いすら、叶わないのだろう…



ー…


『よ、よろしくお願いします…!』

そういって私がこの会社に入ってきたのが去年の春だった。

新しい会社に新しい人間関係、私は不安ばかりだった。

そんな私の教育係になった…いや、“させられた”のが、観音坂先輩だった。

よくよく考えれば、あの頃から先輩はいつも課長や他の先輩たちによく思われてなくて、いろいろ腫れ物扱いされてた。

…でも、そういう私も、所謂腫れ物扱いされる部類の人間で。

なんで、なんて、わたしが一番聞きたいのに。

でも、観音坂先輩は、そんな顔ひとつ見せることなく、親切丁寧に、物覚えの悪い私に、仕事を教えてくれて、私がミスを仕出かしたら、俺が悪いって、一緒に謝りにいってくれた。

絶対絶対、100%他の先輩や課長が悪いことでも、観音坂先輩は文句ひとつ言わずに、頭を下げてた。

ホントに、仏様みたい。

でも知ってる?

“仏の顔も3度まで“なんだよ。

ー…




『おはようございます、観音坂』

「…あぁ、おは、よう…」

今日は、いつにもまして目の下の隈が酷く、ふらふらしていた。

私はなんだか嫌な予感がしていた。

こういうときの嫌な予感って、嫌なことに当たるんだよね…

「…あぁ、江藤、今日の、えい、ぎょ…」

『せんぱ…ー!!』

言い終わることもなく、観音坂先輩が倒れた。

日頃の睡眠不足とストレスからだろうって。


…どうして?

なんでこんなになるまで我慢してたの?

いつもネガティブモードに入るときに言ってるじゃないですか。

愚痴ならいくらでも聞くって。

無理しないでって。

…あぁ、どうして。

点滴の繋がれた観音坂先輩の腕を見ながら、後悔と自責の念にかられる。

先輩は私の教育係で、幾度となく私のことを助けて来てくれたのに…

私は助けられないの…?

そう思うと、目の前が真っ暗になった。

私は泣いた。





目が覚めたら

(どうして無理したんですかって。おこってやるんだから)