緊張の後安堵

勢いよく駆け出したのはいいが、独歩に会ったということは、ここはシンジュク・ディビジョンなのだろうか…

というか、色々感情が欠落していたが、ここに来たということは、私には衣食住がない。

ついでに金銭面もなければ、戸籍もない。

…どうしろというのだろうか…

神様なんていないんだ…

走って少しして、息が切れたところで、公園を見つけた。

独歩が追いかけてきていないことを確認して、公園に入る。

『…ふぅ、疲れた…はぁ…はぁ…』

公園内のベンチに座り、少し息を整えたところで、私は鞄の中のチェックを始めた。

『えーっと…』

あるのは、財布、身分証明書、印鑑、コスメポーチ、時計、スマホ、ファイル、救急セット、裁縫セット、充電器、パスポート、通帳、その他もろもろ…

『…あ、あんまり使えるものがない…』

自分の鞄の中身にガックリした。

私は、帝統や理鶯みたいに、ギャンブルやサバイバルができる訳じゃないからなぁ…

どうしよう…

『…っ、いた、』

急に足に違和感を感じ、見てみると、足をひねっていたようだった。

『…急に走ったからなぁ…』

はぁ、とため息をつく。

…あれほど、あれほどヒプマイの世界に来たいと思っていたのに。

けれど、いざ来てみると、誰も頼れない。

誰も助けてくれない。

こんなに心細いんだなぁ…

と、涙が溢れた時だった。

「…お姉さん、こんなところで何してるんすか?」

『え…?』

いきなり聞こえた声に、思わず涙もそのまま顔をあげると、そこにはオッドアイ。

…山田一郎…

「え、泣いてる?ほ、ホントにどうしたんすか!」

私の顔を見るとぎょっとして、慌ててしゃがんむと私と目線をあわせて背中をなでてくれた。

『…やさしい』

思わず口から溢れた

すると、一郎はキョトンとしてから、

「これくらいやさしいうちにはいんねぇっすよ!」

と明るく笑った。

それにつられて私も笑ったが、また涙が溢れた。

「あー…何があったかはしんねーけど、取り敢えず涙が拭いて」

と、彼はポケットからティッシュを取り出した。

…にしても、イケブクロ・ディビジョンにいるはずの彼がなぜここに…とは思ったが、当然聞けないので、うつむいていると、彼が尋ねた。

「…で、なにかあったんすか?」

『…実は、その…私、ちょっと特殊な事情があったみたいで、…自分でもその事情を理解できてなくて、その…』

歯切れの悪い私に、彼はきょとんとしてから笑いかけた

「だったら、その事情を俺に話してくれませんか?ほら、一人より二人のほうが、事情を理解するのが早いかもしれないじゃないですか!」

『え、でも…』

こんなこと、当人に話しても良いのだろうか…

言い淀む私に、彼は言った

「ほら、困ったときはお互い様って言うじゃないですか!大丈夫、悪いようにはしませんって!」

『そんな心配はしてないけど…』

少し悩んでから、私は頷いた。

『…じゃあ、お願いします』

「はい!任せてください!俺、山田一郎って言います!」

『山田一郎…』

やっぱり…

「覚えやすいでしょ?」

と彼は笑った。

「よろず屋山田って名前で何でも屋やってるんで、よかったら」

『あ、はい…』

一通りの話をしてから、一郎が、隣に座っても言いかと言うので、頷く。

「じゃあ、失礼します。…それで、なにがあたったんです?」

『…実は、私、違う世界から来ちゃったみたいで…』

「は?違う世界?」

怪訝な顔をする一郎。

『…あの、山田さん。私、あなたのこと知ってるんです』

「…それは、今自己紹介したから、と言うわけではなく、という意味ですね?」

『はい…』

流石一郎、飲み込みが早い…

「具体的に教えてもらえますか?」

『はい…』

私は、私の世界では、ヒプノシスマイクがないこと、女尊男卑ではないこと、戦争があったことや、今出来る限り思い付くことを話した。

「…なるほど」

一郎はそう呟くと黙り混んでしまった。

考え込んでいるようだ。

私は彼が再び口を開くのを待つしかない。


一郎side

今日はシンジュク・ディビジョンでティッシュ配りの手伝いをしたところだった。

公園に通りかかると、一人の女性がベンチに座っているのが見えた。

「…こんなところに女が一人って危なくねぇか…?」

心配になってそ女性に歩み寄るが、俺に気付いた様子はなく、微かに震えているのがわかった。

女と言えば、どいつもこいつも高飛車で勝ち気な奴ばかりだと思っていたが…

俺は興味が湧いた。

「…お姉さん、こんなところで何してるんすか?」

思いきって声をかけてみると、ばっと上げた顔には涙の幕が張っていた。

驚いて微かに目を見張る。

「え、泣いてる!?ほ、ホントにどうしたんすか!」

慌ててしゃがんで女性と視線をあわせて背中を擦る

『…やさしい』

思わず口から溢れたらしい言葉に目を見張るってから笑った。

「これくらいやさしいうちにはいんねぇっすよ!」

それにつられて女性も笑ったが、また涙が溢れた。

「あー…何があったかはしんねーけど、取り敢えず涙が拭いて」

と、俺は今日の残り物のティッシュを取り出した。

「…で、なにかあったんすか?」

少し落ち着いたところで問いかけると、女性は歯切れが悪く呟くように答える。

『…実は、その…私、ちょっと特殊な事情があったみたいで、…自分でもその事情を理解できてなくて、その…』

俺はきょとんとしてから笑いかけた

「だったら、その事情を俺に話してくれませんか?ほら、一人より二人のほうが、事情を理解するのが早いかもしれないじゃないですか!」

『え、でも…』

言い淀む女性に、俺は言った

「ほら、困ったときはお互い様って言うじゃないですか!大丈夫、悪いようにはしませんって!」

『そんな心配はしてないけど…』

少し悩んでから、女性は頷いたので、自己紹介した。

『…じゃあ、お願いします』

「はい!任せてください!俺、山田一郎って言います!」

『山田一郎…』

呟く女性に笑いかける。

「覚えやすいでしょ?よろず屋山田って名前で何でも屋やってるんで、よかったら」

『あ、はい…』

一通りの話をしてから、隣に座ってもいいかと尋ねたら、頷いてくれた。

「じゃあ、失礼します。…それで、なにがあったんです?」

俺が尋ねると、途端に困惑する女性。

『…実は、私、違う世界から来ちゃったみたいで…』

「は?違う世界?」

思わず怪訝な顔をする俺。

二次元の話しか?

『…あの、山田さん。私、あなたのこと知ってるんです』

「…それは、今自己紹介したから、と言うわけではなく、という意味ですね?」

『はい…』

真剣な話し方から推測したことをたずねると、頷いた女性。

「具体的に教えてもらえますか?」

『はい…』

女性は、彼女の世界では、ヒプノシスマイクがないこと、女尊男卑ではないこと、戦争があったことや、今出来る限り思い付くことを話してくれた。

「…なるほど」

ラノベは腐るほど読んできたが、実際に遭遇したのははじめてなので、どう対応したらいいのか、暫く考える。

ふと女性の手元に目をやると、震えているのが見て取れた。

それはそうだろう。

気がついたら知らない場所にいた、なんて、不安に決まっている。

なら、俺にできることはひとつしかない。

「…あの、お姉さん。お名前聞いても?」

『あ、すみません…!私、江藤みのりって言います、よろしくお願いします』

彼女は深々と頭を下げた。
女性ー彼女は元来とても真面目な人なのだろう。
それはこれまでの会話から聞き取れた。

そんな人を、俺は放って置けない。

「江藤さん、うちに来ませんか?」

『え…?』

彼女は面食らった顔で俺を見ていた。

そんなこといわれるなんて思っても見なかった、という顔だ。

『そ、そんなことしてもいいんですか!?私は急に現れたら身元不明の女ですよ!?しかも、あなたのことを一方的に知ってて…』

「だからなんですか?俺は元々T.D.Dのメンバーで個人情報なんてあってないようなものだし、むしろ俺たちのことを知っているあんたなら、いえのことを任せても大丈夫そうだ」

『いえのこと…?』

彼女は混乱しているらしい。

きちんと説明しないとな。

「つまり、俺たちと一緒にすんで、家のことをしてほしいんです」

『え、え…?』

「所謂マネージャー見たいなもんっすね。俺と二郎と三郎の面倒を見てほしいんすよ」

さすがに厚かましすぎか?とは思ったが、彼女は目を潤ませて納戸も頷いた。

『わ、わかりました…っ!みなさんの、お世話をするので…おうちに、おいてください…!』

「はい。…よろしくお願いします、江藤さん」

ぽん、と肩を叩くと、彼女は安心したのか、しくしくと泣き崩れた

俺は黙ってそばにいた



緊張の後安堵

(居場所を見つけました)