爆豪勝己と料理する話
「ババァは引っ込んでろ。無駄な仕事増やすな」
「ええ、辛辣……」
林間合宿3日目。昨日のカレー作りの失態を挽回しようと意気込んでいたなまえだが、開始早々爆豪によって出鼻をくじかれてしまった。しかし彼女はそれにめげることなく、八百万に頼んで作ってもらったピーラーをかの御老公の印籠よろしく高々と掲げ「今日は大丈夫!」と自信満々に言ってみせた。だがそれも「ウルセェ」の一言で一蹴される始末。そうしてなまえを端に押しのけた爆豪が、包丁片手にさっさと人参の皮むきを始めてしまった。
「えっ薄!すご!」
「こんなんヨユーだわ」
「でもピーラーの方が早くない?ほら」
そう言ってなまえが人参をひょいと持ち上げ、ピーラーでするりとその皮を剥く。すると爆豪によってすぐさま人参を奪い取られてしまった。
「ふっざけんな!皮ンとこに栄養があんだわ!剥きすぎだバカ」
「えぇ〜めっちゃ主婦」
「あ?ぶっ殺すぞ」
「いや褒めてるんだけど」
なまえは「折角作ってもらったのに」とぼやきながら、手にしていたピーラーを包丁へと持ち替えた。それからぎこちない手つきで人参の皮を剥いていく。その様子を見ていた爆豪が「なんっだそのクソみてーな持ち方は!」と横から口を挟む。傍から見てもなまえのやり方はいずれ自分の指を切りかねないものだった。
「えっこう?」
「ちげーわ!こう持つんだよ!」
「……こうか!」
「テメェの目はどうなっとんだ!!」
ダンッと音を立てて、爆豪は持っていた人参と包丁をまな板に叩きつけた。それから彼女の腕を鷲掴むと、背中側に回り二人羽織のようにして包丁の使い方を教えた。「右手はこう、親指はここ、人参はこう持て」なんて男子高生が成人女性に教える構図は些かシュールである。
周りにいる生徒たちは料理が全く出来ないなまえが可笑しいのか、あの爆豪が丁寧に包丁の使い方を教えているのが可笑しいのか、自分でもよく分からないままにただ肩を震わせ笑いを堪えていた。少なくともここで吹き出したら爆豪がキレ散らかすことは目に見えている。触らぬ神に祟りなし、だ。
「……この持ち方やりにくい」
「テメェが変な癖つけてっからだろ」
「でもありがとう!ちょっと練習してみる!」
そう言ってなまえが振り向いたことで、ようやく2人は自分たちの距離の近さを自覚する。目と鼻の先に爆豪の顔があることに驚いたなまえは思わず「あ、ごめん」と言葉を漏らした。爆豪は一瞬固まったのちに、軽くよろめきながら一歩後ずさった。その頬をじんわり朱に染めて。
「えっ!?まさか……照れてる!?」
「誰がだクソが!!」
「やだめっちゃウブ……!」
「おいテメ、」
「ちょっスマホ、ああっない!ねぇ誰か動画撮って動画!超レア!!」
「〜ッ!!」
ブチンッ。堪忍袋の緒が切れる音を聞いたのは、きっと爆豪本人だけだろう。しかしそれを察したらしい1-Aの大半はサッと顔を青くした。そんなことには気付く素振りもないなまえが「上鳴くん!」と常にスマホを持ってそうな人No.1に声を掛けるが、上鳴はサッと彼女から目を逸らした。
なまえは首を捻りつつも仕方なく1番近くにいた瀬呂に「ねぇ今の見た?見た!?」と声を掛けたが「見てないっス。断じて何も見てないっス」と彼もまた逃げるように俯いてしまう。なまえが皆のノリの悪さに不満を抱いたその時、彼女の後ろからボンッと爆破音がした。それがなんの音かなんて言うまでもなく。
「……ブッ殺す」
僅かに身をかがめ、なまえに狙いを定めた爆豪。殺される、そう思ったなまえは爆豪より一寸早く駆け出した。途端、ボボボボッと連続した爆破音が彼女の背中を追いかける。
「爆豪くん、暴れるのは止めたまえ!料理に砂が入る!」
「そこじゃないでしょ飯田くん!!」
2人の追いかけっこは担任である相澤に注意されるまで続いたのだった。なまえにとってはそちらの方が怖かったのは言うまでもない。
- 47 -
*前 ◇ 次#
top