尾形くんとレスになりたくない



 

 もこもこのルームウェア。無印良品の化粧水と乳液。コップに差した歯ブラシ。尾形くんと付き合って半年も経つと、週末に泊まりに行く部屋には私の私物が定位置を決めて馴染んでいた。
 
「帰りたくないなぁ」口癖になっていた日曜日のぼやき。「一緒に住むか」と、尾形くんが初めて返す。迷うわけがなかった。お互い口に出さずとも、そういう未来を期待していることは伝わってきたから。

 それからの尾形くんはとにかく行動が早かった。前から色々調べて新居住地をピックアップしていたみたいで、二件目の内見の部屋を私が気に入るとそこへ決めて諸々の手続きを進めた。家具はものによってどちらかのものを使おうとなったけど、ベッドは新調しなくてはいけない。家具屋さんで「揺らしてもうるさくねえやつがいいだろ」とニヤケながら言う尾形くんを小突いた。
 ダブルサイズのベッドを買って、新しい匂いがする部屋に荷物が運び込まれて、私たちが住人となり始まった同棲生活。
 先に帰ることが多い私はご飯を作って待つ。自分の家へ帰ってきてくれる人がいる。好きな人と毎日同じご飯を食べて一つのベッドで眠る。傍らに尾形くんがいる生活は、些細な日常の風景でも胸を華やがせた。尾形くんの知らなかったことを知るたびに、尾形くんを好きな気持ちがまた胸の中で押し広がっていく。そうして恍惚と過ごした最初の一ヶ月は、目の前で流れる時間全てが夢見心地だった。
 家具や家電が新しい部屋に馴染み、家事の分担や生活サイクルが安定して回るようになった今、私も尾形くんと一緒にいる毎日に根をおろし、穏やかな幸せに包まれて眠っている。耳をすませれば尾形くんの静かな寝息が聞こえてくる日々は、尾形くんと出会ってから恋に身をやつしてきた私に、心の奥からの安心を与えてくれたような気がする。
 
 その日の夜は華やかな内装のイタリアンレストランに来ていた。大学時代からの友人三人は、尾形くんとの新生活について身を乗り出して聞いては私の話にはしゃいでいる。好きな人と付き合うことになったと伝えてからずっと、在学中から浮いた話一つなかった私の変わりように驚き、幸せを喜んでくれていた。
 各々の近況報告の中でも恋愛の話はとくに盛り上がる。私の話から彼氏と同棲三年目の友達の話に移った。尾形くんと暮らす前、私の理想の同棲生活のイメージは、彼女から聞く話が大きく影響していた。喧嘩や習慣の違いの愚痴を言いながらも順調に愛を育んでいることをいつも話していた彼女は、「実はさ」と、沈んだ表情で私たちに打ち明けたのだ。
 
「ここのところずっとレスで」
「ほんとに!?」
 一緒に聞いていた二人が目を見開いた。女子の恋愛トークは時に生々しい。前は経験のなかった私にみんな気を使っていたのだろうけど、今は性の現実をあけすけに話している。
「いつから?」
「三ヶ月くらい」
「同棲するとなりやすいとは言うけどねー」
「そうなの?」
 自分の顔が青ざめたのが分かった。友達の悩みが急に自分事に迫ってくる。
「ほら、お互い新鮮味がなくなってくるから、異性として意識しなくなっちゃうってね」
 もちろんその人たちによるけど、と私をフォローするように付け足されても「じゃあ私たちは大丈夫」なんて思えない。恋人同士でもレスになるなんて。夫婦のレスを題材にした漫画で見るような、誘ってもはぐらかされてしまう夜を、憧れていた友達が似た状況になっていることを知ってリアルに想像してしまう。
 
 お互いの存在に慣れるって、いい事ばかりじゃないのかもしれない。慣れ≠ナ悩んでいるカップルはたくさんいる。そこから浮気をしたり、別れるカップルも。
 でも、そしたら。その安らぎに安心ができないのだとしたら、一緒に暮らしたり結婚をするって、何の意味があるのだろう。
 
 帰りの電車の中で席に座ると、私は周囲を気にしながら「セックスレスにならない対策」について調べた。
 
1.生活感を見せない。部屋の散らかりやずっとパジャマでいることはNG。
2.セックス以外で下着姿や裸を見せない。
3.一緒にお風呂には入らない。

 どうしよう。全部やっちゃってる。
 特に週末に一緒に入るお風呂。「洗ってるだけだろ」と言って、後ろからボディソープのついた手でえっちなところを触る尾形くんと、一度だけお風呂でした。少し水が痛かったことを伝えてからは、ただ湯船で抱きしめてくれる。ベッドの中とはまた違う意味があるあの時間がとても好きなのに。

 振り返って、窓に反射して映る自分を確かめる。おしゃれしたよそ行きの私。私はボサボサの髪の毛の、スウェット姿の無防備な尾形くんが愛おしいと思う。でも男の人は女らしさというものにとても敏感らしい。セックスをしなくても関係に支障がないというカップルもいるのかもしれない。それだけが恋愛の全てではないのだから。でも、身を委ねながら心を許し合う男女の愛し方を、尾形くんに求められなくなったら。そんなの寂しいに決まっている。
 
 落ち込んだまま家へ着くと、玄関の鍵が開いていた。
「ただいま」
 ソファに座りくつろいでいる尾形くんが振り向く。自分も宇佐美さんと飲みに行くと連絡をくれた彼も今帰ってきたらしい。いつもは逆だけど、家へ帰れば待ってくれている人がいるって、胸にあたたかいものを吹き込んでくれる。
 まだスーツ姿の尾形くんの隣に座ると、白い肌にはわずかに赤みがあった。
「今日行ったイタリアンすごい美味しかったよ。尾形くんとも今度行きたい」
「そう」
「みんな尾形くんと同棲始めたこと喜んでくれてたよ。それで今度式挙げる子がね、……どうしたの?」
 スマホを触る手を止めて話を聞いている尾形くんは、穴が空くほど私を見つめてくる。その目に甘い膜が張っているから照れくさくなった。
「宇佐美が、俺にはもったいないだと」
「ふふっ。そのうち宇佐美さんに会えるかな?」
「絶対会わせない」
「私はみんなに紹介したいな」
 尾形くんの肩に抱きつくと、押し倒されて二人でソファに寝転んだ。ワイシャツが鼻に触れて微かに香ばしい匂いがする。何食べてきたの? と聞くと、当ててみろと返す尾形くんはご機嫌だ。二人とも外での装いをしているのに、お互いにしか見せられないような姿になって、聞かせられないような会話を交わしている。大人の恋愛もその実とても子供っぽいのかもしれないと考えていたら、給湯器からメロディが流れた。
 
「すぐ入るだろ?」
 ドキリとして、電車で読んだ記事の3を、一言一句思い出す。本当はこのままお風呂でも戯れていたい。でも、続けることで尾形くんの熱が枯れていってしまうなら。今から出来る限りの努力はしていかないと。
「先入っていいよ」
「入らないのかよ」
「尾形くん疲れてるだろうし、一人の方がゆっくりできるかなと思って」
「……わかった」
 後ろめたさを募らせながら、リビングを出ていく尾形くんの背中を見送った。心を許すことだけできたらいいのに。親密になるほど魅力が見えなくなっていくなんて、恋愛って矛盾している。
 
 それから、私は部屋をこまめに掃除するようになった。几帳面で部屋を綺麗に保てるのは私より尾形くんで、それだけに自分の雑さが目についていたのではないかと反省した。
 寝室でパジャマから服に着替えていたのも、今は服を持って尾形くんのいないところへ着替えに行く。尾形くんは最初不審な私の動きを目で追っていたけれど何も言わなかった。週末に一緒にお風呂へ入らなくなったことも。
 セックスレスの体験談を読むうちになるべくすっぴんでいる時間も減らした方がいいと分かり、私だけ起きる時間を早くして、家にいるだけの休日もすぐに着替えてメイクしている。そうして尾形くんの前で女性らしさをなくさないことに気を張る私は、家にいる時にほとんど安らげなくなった。どこにも手を抜けない生活は、気づくとすごく、疲れている。
 

「……い、おいって」
 尾形くんの呼びかけで我に返る。お風呂あがりの鏡の前で、久しぶりにできてしまった憎らしい肌の隆起にショックを受けていた。
「ごめん。何?」
「洗濯機、明日の朝回すからな」
「分かった。畳むのは私やるね」
「何でだよ? 決めてることだろ」
「いや……ほら、畳み方とかあるから」
 言い訳しようとして、すごく感じの悪いことを言ってしまった。そう、分担で決めたこと。でも、下着を見せること自体よくないから。
 いつもより語気の強い尾形くんは明らかに苛立っていた。脱衣所に硬い空気が流れる。呆れたようなため息が響いたと思ったら尾形くんが出ていった。私の前で尾形くんがこんな風に怒るのは初めてだったから、慌てて追いかける。
 
「尾形くん、ごめん。そうじゃないの。尾形くんの方が仕事が忙しいから大変だと思って」
 寝室へ入った尾形くんに続くと、尾形くんは少しの間、背中を向けたまま立っていた。その寄り付くことのできない雰囲気に、滅多に感情的にならない尾形くんが堪えていたことを知る。
 
「最近お前変だぞ」
「そんなこと、」
「気に入らないことがあるなら言えよ」
 尾形くんがようやく振り返る。あらぬ誤解が生まれていて言葉に詰まった。でも、たしかに最近、家で尾形くんと会話らしい会話をしていない。疲れている私を察してなのか、ベッドでもおやすみに相槌が返ってくるだけの日が続いている。
「察しろって話なんだろうが、分からないままそうされてると、結構応える」
 私、尾形くんとの関係を長続きさせようとして、尾形くん本人をちゃんと見ていなかった。そのせいですごく本末転倒なことをしている。

 恥ずかしいけど、これ以上私たちがすれ違わないために本当のことを話すしかない。
「その、尾形くんとずっと、……仲良くいたくて」
「何言ってんだ。むしろ俺のこと避けてるだろ」
「だから違うの! それはレスになりたくなかったから」
「レス?」
「……セックスレスのこと」
「はぁ?」
 尾形くんから初めて間が抜けた声を聞いた。
 ベッドに並んで座りわけを話している間も尾形くんは呆気にとられていて、尾形くんにとって不審だったあれもこれもがレスの防止策だと打ち明けていくうちに私の顔は熱く火照っていく。尾形くんにとってもらったUFOキャッチャーのくまのぬいぐるみが、情けない私を本棚の上から見ていた。
 
「そんなことかよ」
 話し終えると、尾形くんはもう一度大きなため息をついた。
「そんなことじゃないもん」
 たしかに迷走していたかもしれないけれど、くだらないことのように言われたら心外だ。友達は真剣に悩んでいたのに。
「もし尾形くんが私とするのに飽きちゃって、そんな時に他の女の人に言い寄られたりしたらって、思っちゃうよ」
「何を訳の分からんことを」
 尾形くんにとっては、今の私たちの状態で心を砕く必要がないと思うかもしれない。でも、この生活が変わってしまうことや、尾形くんの気持ちが離れていくことが怖いから努力しなくてはと考えることは当然じゃないか。
 
 尾形くんがため息とは違う力の抜けた声を漏らした。そして、倒れ込むようにベッドに背をあずけて目を瞑っている。
「俺は、お前が俺と住んだこと後悔してるのかと思ってたんだぞ」
 安堵する尾形くんに、胸が詰まる。今なら、私が好きなプリンを今日も買ってきてくれた尾形くんの気持ちが分かる。尾形くんにずっと愛されたいと心を砕きながら、私が尾形くんに心を砕かせていた。
 
「ごめんね。尾形くんと住んでから後悔なんて一つもないよ」
「お前ずっとあんなことやるつもりだったのかよ」
「うん、そうだよね」
 私が実践していたことは理に適っているのだろうけれど、長い生活の中で続けるには正直現実的じゃない。お互いが心の内を明かした今なら、もっと大事なことがあると気づいている。
 
「第一何も分かってねえだろ」
 尾形くんに腕を引かれると、そのままベッドに沈んだ。不安から解放されたのだろう尾形くんは私に跨って、なんか得意げになっている。
「俺はな、お前のこういう気の抜けた格好の方が勃つんだよ」
「なんかその言い方やだ」
「俺の事疑いやがって。お前はどうなんだ」
「私は、尾形くんとしたくないってならない自信ある」
「じゃあ何で俺だけ飽きるって話になるんだよ」
 尾形くんが唇を塞ぐ。私を追い込むようで掬い上げるようなキスは、その瞬間から考えごとを許さない。力が抜けていく私をそのままベッドの奥へ入れ込んだ尾形くんは、服の中に手を滑らせて胸に触れた。唇が離れると尾形くんの後ろで照明が光っていて、さすがにこんな明るいと恥ずかしい。
「電気消して」
「マンネリ防止になるだろ」
 まだ怒ってるんだ。尾形くんってわりと根に持つから今日のことしばらく引っ張ってきそう。ベッド下の引き出しを開けた尾形くんが何かを引っ張り出す。黒いシリコンで覆われた、マイクのような形をしたマッサージ機。
 
「それどうしたの?」
「マンネリ防止」
 尾形くんは私を後ろから抱え込むと、マッサージ機の頭をパジャマの上から胸に当てた。「待って」と声にするより先に、スイッチが入って微弱な振動が唸る音を立てて始まる。服越しの甘い刺激に腰が浮いた。小刻みな揺れで、乳首がすぐに硬くなっていくのが分かる。
「あっ、あ、あ」
「まだ一番弱いやつだぞ」
「んん、これ、きもちいのずっと、つづいてる」
 離れた機械がもう片方の胸に押し当てられる。私がもどかしさを感じていることに気づいているくせに、尾形くんはいっこうに服を捲ろうはしない。じれったさが私を素直にさせた。
 
「尾形くん」
「何?」
「もっと、きもちくなりたい」
 耳にかかった吐息が私を震わせる。
「じゃあ脱げよ」
 脱がしてくれないんだとちょっと拗ねながら、熱が燻る身体から上下のパジャマを脱ぐ。尾形くんはその姿をじっと見ていた。肌が照明に晒されるとやっぱり恥ずかしい。また私を抱え込んだ尾形くんが、スイッチを入れた機械で胸に触れる。焦らすように乳首の周りを丸く撫でられると膨らみが揺れた。
 欲しいところに触れてくれない。切なくなって膝を擦り合わせていたら、不意を突くように機械が尖った芯にかすかに触れた。
「ひぁっ」
 私の反応に尾形くんがふっと笑う。振動音が早くなって、その刺激にはしたなく喘いだ。尾形くんにもう片方の頂を指で摘まれ両方をいじめられると、すぐに耐えがたい快感がのぼってくる。
 
「ん、あ、あぅ、ダメ、イク、イク」
「もうイクのかよ」
「だって、あっ、あ、あぁああ゙っ!」
 背中をそらせて達した私を尾形くんが抱きしめる。こんなにはしたないところを見られているのに恥じらう余裕もなかった。浅い息を繰り返す私の身体は、まだ小さく痙攣している。尾形くんが太ももを掴んで足を広げる。スイッチが入ったままの振動音が、これ以上快感を与えられたらどうなってしまうのだろうという恐怖を煽る。
 
「ダメっ、まだイッてるから」
「お前がもっとよくしろって言ったんだろ」
 ショーツの上から押し当てられると、迸る快感が襲ってきて身を捩った。
「あっ、あぁあん、んんん゙ん、ああ、あ、あ!」
 逃がさないように膝を掴まれながら、太腿が震えて腰がガクガクと浮く。尾形くんがボタンを押してもう一段階振動を強くすると理性が完全に散った。
 
「あああん!ダメダメっ、おがたくっ、やめて、イっちゃう、イッちゃうゔンン、ぁあ゙、ああああ!!!」
 呆気なく絶頂した。愛液でぐちゃぐちゃに濡れた下着を尾形くんが掻き分けて、今度は直接そこへ宛てがう。振動を寄越す先端が細い首のところでぐにゃりと曲がって、割れ目にぴったりとくっつくと擦り付けるように上下される。
 
「イッた!イッたから、やだ、やらぁ、もお、あぁああ、ひぃ、」
「俺が飽きると思ってるのか?」
「おもってなぃ! ちがぅ、んん゙、ぁ、ごめんなしゃ、ごめんなさしゃい、あっ、あ、イク、だめ、だめイク、」
「イッてる顔見せろ」
 快楽の坩堝で泣き狂っている私に、尾形くんが耳元で囁く。それだけでまたイッて、顔を横に向けると潤んだ視界で尾形くんと目が合った。怒っているようにも見える堪えた表情は、私の痴態に興奮している。唇が重なって舌を吸われる。洪水のようになっている中をくちゅくちゅと指で掻き回されると、中がきゅうっと尾形くんの指を締め付けた。奥でばらばらに動く指先を感じる。振動の強くなった機械の先端が陰核を押し潰したその瞬間、音を立てて思い切り潮が吹き出た。
 
 飛沫を吸ったシーツに構うことなく尾形くんは私の口内を弄り続けた。指が乳首を捏ねると身体がびくりと跳ねる。私の愛液で濡れた黒いマシンがベッドに投げ置かれると、尾形くんは私の耳にキスをして掠れた声で囁いた。
「気に入ってよかった」
「でもちょっと怖い」
「ちんぽとどっちが気持ちいい?」
 欲情した息遣い。挿れたくてたまらないという顔。多分、私も尾形くんに挿れられたくてたまらないという顔をしている。
 
「おちんちん。尾形くんのおちんちんほしい」
 起き上がった尾形くんは服を脱ぐと、いつになく焦った手つきで私のショーツを脱がせて反り勃った自身にゴムをつけた。私の四つん這いにさせると腰を掴み、柔らかくなったそこへずぶすぶと押し進めていく。中がその圧迫感に悦んで締め付ける。一番奥まで熱を埋めると、尾形くんが低く呻いて笑った。
「ちんぽ食われそうだな」
 
 腰を掴み直した尾形くんが律動を始める。快感と、尾形くんに支配されている恍惚に溺れながら鳴いた。前後に揺さぶられる身体は支えていることがやっとで、突き上げたおしりが尾形くんの腰にぶつかる度に乾いた音が響いている。
「あっ、んぁ、いい、きもちぃ、あっ、んぁぁ、ああ、あん、」
 
 尾形くんが動きを止めた。乳首を摘まれてまた尾形くんを締め付ける。先まで引き抜かれた尾形くんの熱に勢い良く貫かれると、汚い喘ぎ声をあげた。チカチカと白い閃光が舞う。律動を思い切り早めた尾形くんに打ち付けられて、逃げるようにシーツを掻いている。
 
「うぅ、あ゙、あ、あ、もぉ、イっひゃう、イクイクイク、あ、ぁああ!」
 最奥を穿たれ、背中を弓なりにしてオーガズムに達した。中はびくびくと痙攣している。息を乱した尾形くんに自身を引き抜かれるとその感触だけで声を漏らした。私の身体を仰向けに返した尾形くんが、今度は膝を曲げて座るとそこに私を乗せる。天を向いた尾形くんの熱を埋めるように、私がゆっくりと腰を落としていく。
「あっ、んん」
「これ好きだよな」
「うん、尾形くんとぎゅってできるから好き、あ、あっ」
「っ、お前そういうのがなぁ」
 尾形くんに抱きつくと、お互いが腰を動かして快感を追い求めた。重なった尾形くんの肌に、荒い息遣いに、私を抱きしめるしっかりとした腕に愛おしさを覚えて、尾形くんの耳元で鳴くと中で熱が大きくなったのが分かった。目の前で揺れている胸に吸いつかれて、頂を舌で掬われる。
 
「あっ、あ、あ、だめ、んっ、んぅ、あ、」
「サボるなよ」
「んぁっ!」
 気持ちよさで身悶える私を、尾形くんが下から突き上げる。そう言いながらも、胸に顔を押し付けるように私を離さない。快感で腰が止まってしまう私の乳首を口に含んだまま、尾形くんは奥の子宮口を叩いた。脳が痺れるような感覚。お互いの身体をよく知ってきたからこそのとめどない快楽に襲われる。
 
「あっ、あ、尾形くん、きもちい、あ、ふ、はぁ、おがたくん、すき、すき、っあ!、まって、ダメ、あ、あん、ああ゙っ!」
 私の顔を見て尾形くんが口角を上げる。
「飽きるわけねえだろ」
 尾形くんが思い切り上下に腰を振ってまた絶頂に達した。息を整える間もなくシーツに倒される。その上から覆いかぶさられて、尾形くんが達するための律動が始まる。ベッドの奥でスプリングが軋んでいる。私は尾形くんにしがみつきながら、中で子宮口が尾形くんとぶつかる度に達して鳴いている。
「おがたくん、あ、あっ、ひもちい、イグ、イグ、あ゙、あ゙、ああ!、」
 尾形くんがぐ、と唸って私の奥へ打ち付けるて、動きを止める。ゴム越しに尾形くんの欲が吐き出されたことを感じながら、私に重みをかけてくる身体を抱きしめた。
 
「シーツ変えないと」
「後でいいだろ」
 寝転んだ尾形くんの腕に引き寄せられ、気だるさと幸せに包まれながら頷く。レスの一番の対策はおそらく、目の前の二人の時間を大事にすることだから。


 
 その後の女子会で、友達がレスを解消して前より仲が深まったことを聞いて喜びながらも、レスについて尾形くんと一悶着あって、思い知らされたことは心に留めておいた。週末のお風呂は復活したけど、「そういうのはお前だけが気をつけることじゃねえだろ」と言う尾形くんとなら、これからも大丈夫。
 




冷たいラブロマンスを抱いて眠る