ほっぺに食べかすついてるのをペロッとするやつ



「え、なにこれうんまい」

眼前に広がる甘味の山はこんな時間にも関わらずに誘惑を仕掛けてきた。生まれてこの方体重を気にしたことなどないが、これだけ腹に収めるとその後のカロリー消費が苦労しそうだと思った。
しかしながらやはりそんなことを気にする性質ではないので、欲望のままにフォークを突き立て、一口。それだけで後はもうこの極上の味を楽しむことしか考えられなくなった。単純である。
寝る前に多く食べ過ぎるのは太る太らないを抜きにしてもいい事ではないので、全部一気に食べてしまいたい衝動を抑えてこの一つだけと決める。つやつやとした旬のいちごが真ん中に乗ったショートケーキ。見た目にも楽しめるスウィーツである。
元々がお菓子好きであるために舌は素直にその味を伝えてきた。久しぶりに美味しいケーキを食べたような気がする。目を丸くして正面で構えるクラウドに訴えた。

「なんで?なんでこれこんなうんまいの?誰の陰謀?」
「よかったな」
「よかねーよ!うまいっつってんだろ!!」
「うまいもの食ってどうしてキレるんだお前は」
「こんなの食べるしかないじゃん!うんまいんだもん!!」

続いて二口目を運んだあとは文字通り手を休めることなく残りを口に運んだ。その間向かいのクラウドはしげしげとその姿をどこか嬉しそうに眺めているだけだった。自分は食べないのかと不思議に思うよりも、美味しいケーキに夢中になり、ものの数分でそれは胃の中へと消えていた。
時々ではあるが、こうしてクラウドは何の拍子かお土産を買ってくる。それはこうしたケーキだったり、はたまた食べ物ではなかったりと色々だが、買ってきて与えてくる度に返す反応を見られている。それが楽しいのだろうか、と餌付けされているようで腑に落ちない部分はあれど、物に罪は無いので素直に受け取っていた。
今日もまたそうして食べる姿を一頻り眺められて、ごちそうさまと満足した笑みを抑えられずに言えばクラウドも微笑んでいた。

「もういいのか」
「明日!今全部食べちゃったら勿体ない」
「そうなのか」
「そうなんです」

上機嫌でにこにことする姿がクラウドには微笑ましくて堪らない。一言で言えば可愛いのだ。これが自分以外の誰にどう見えようと、クラウドの目には可愛い生物がにこにこしているだけのご褒美映像でしかない。時折こうして何かを与えているのはこれを見る為である。隠しもせずに表情全てで感情を表す彼女が好きだった。
まだケーキが残っている箱をいそいそと締めているのを見ていると、その頬にクリームがついているのに気づいた。その瞬間に、然も自然な動きで身体が動いていた。言葉でついていると伝えるよりも先に、クラウドは身を乗り出して彼女との距離を詰める。そしてついているクリームに狙いを定めて唇を寄せた。
丸い目を見開いて、顔を真っ赤にして、出ない言葉ばかりを作る口をパクパクと開閉させて、彼女は固まっている。何かおかしなことでもあっただろうか、そうクラウドがどこか逆上せたようなのろい回転を続ける脳で考えている間に、拳が飛んでくる。ああやってしまった、衝撃がいつも通りの思考を戻してくれた。しかし弁解もする暇もなく今まで機嫌の良かった笑顔は消え失せて、代わりに強い眼光ときつい言葉が飛んでくる。

「な、何してんのばか!!いきなり何してくれてんの!?」
「いや、ついてたから」
「じゃあ口で言え!!その口は飾りか!!それか手を使え!!直に来るな!!ていうかわたしのクリーム勝手に食うな!!返せ!!」

恥ずかしがっているのは解るが、最後にはズレて行く発言にいつもながら理解が追いつかない。が、それを追求するよりもまた彼女が怒りだしそうな考えに至ってしまう。
返せというなら。
どうせいくらこうして喚こうがクラウドにはやはり効果がないのだ。盲目すぎる感情には可愛いだけの、その意味のわからないことを吐き出す口に再度近付いていった。




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