高いとこの物を取ろうとしてバランスを崩し、助けようとしたら一緒に倒れ込むアレ
「あれー?ないなー。クラウドー折り紙見てないー?」
「この間掃除した時に棚に仕舞ってただろ、自分で」
「よく覚えてんなお前」
「……俺が知ってると思って聞いたんじゃないのか」
「いやなんとなく誰かに聞くと言う習慣でして。マジでクラウドが知ってるなんて思わなかった」
「………」
「で、どこだって?」
本当に何なんだコイツは、とふんだんに呆れた眼差しでクラウドは彼女の探し物があるだろう戸棚を差した。
天気がいいと言って、この間いきなり家の中を掃除、そして模様替えしだしたのは記憶に新しい。彼女の物がこの家に増えてきている。一緒に住みだして随分と経った証拠であり、共に居られているという目に見える二人の距離だった。自分も片付ける事がうまいとは言いにくいが、彼女の使った物が時折出しっぱなしにしてあるのを何度か指摘したこともある。子供たちと一緒になって工作などしていると、終わった後そのままに遊びに行ってしまうのもよくあることで、はさみなどが放置してあるのは危ない。彼女としては後で片付けるのだと言っているからして決して悪気などはないのだが、子供の教育上保護者である自分たちが間違ったことは出来ない。故に子供を叱るように注意をしているが、コイツは昔からクラウドの言う事を素直に聞いたためしがない。ああ言えばこう言うと例えるのが正に適切である。今の所、マリンもデンゼルも彼女の真似をして言い訳をしたり逆にキレてみたりなどはしていない。子供の方が大人なのではないかと思ってしまう。
ともかく、その時も彼女は使った前日に子供たちと遊んだばかりであった折り紙や糊やはさみなどと言った用具を自分でそこに仕舞いこんでいた。後でどこだと騒ぐのはその時に軽く想像していたクラウドは自分の予想が完全に的中したことに、彼女を理解出来ている嬉しさと共に、コイツはいつになったら落ちついて自分の行動を省みることが出来るのだろうかと毎度の悩みの種を育てて行った。
そんなクラウドの悩みもそっちのけで、彼女はいそいそと近くにあった椅子を運んでいる。彼女が仕舞いこんだのは高い場所にある戸棚だった。クラウドでも手を伸ばさないと届かないそこは、クラウドよりもかなり背の低い彼女には到底手が届かない高さだった。なんでそんなとこによく使う物を仕舞いこむのかも意味がわからないが、そこは彼女だからという理由で片付ける。それ以外に理由が思いつかないと言った方がいいか。今日も恐らく子供たちと遊ぶ為に折り紙を探しているのだろう。彼女の折り紙力は結構なものらしい。鶴だとか花だとか、一枚の紙だけではなく数枚を組み合わせて作るくす玉だとか、色々と作り方を知っていてそれを教えてくれるのだとマリンが喜んでいたのを覚えている。全くそういう無駄な知識、というか雑学的な事だけはあの小さな頭によく詰まっていることだと感心する。素直に彼女の器用さはクラウドからすれば凄い事だった。
そんなことを考えながら彼女が椅子に登って手を伸ばす様を見ていた。いくら小さいからとて椅子なんかに乗れば悠にクラウドを追い越す背丈では、あの高さなど簡単に届く。扉を開いて中を見ればすぐに目的のものは見つかるだろう。が、そこでクラウドの脳裏にはよくない結果が予測された。椅子に乗って物を取るだけ。慎重に、且つ落ちついてやれば誰でも出来る簡単な事。実際今この行動を取っている人間は世界中規模で言えば沢山いるはずだし、大多数は気にもかけず1分もせずにこの行動を終えるだろう。二十年以上生きてきてこんな行動は幾度も経験しているはずであり、日常の一部である。失敗する方が難しい。
だが、彼女はどうだろう。例に倣ってこんな行動は何度も取っているだろう、しかし、何か嫌な予感がする。こんな時、クラウドの嫌な予感が外れたことがない。何かしでかすだろう、そう思っていつも未然に防ぐべく尽力しても、結果予想よりも酷いものになっている。それがクラウドのよく知る彼女だ。
椅子に登ったと言う事は、高い確率でコイツは落ちるに違いない。そう思ってクラウドは彼女の背後にていつ何が起こってもいいように注意深く待機していた。その間探し物を見つけるべく奮闘している彼女はそんなクラウドに気付かずに戸棚の中をごそごそと物色している。「あ、これこんなとこにあった」とか言っている辺りここに何を仕舞いこんだのかはすっかり忘れているようだ。今度から入れた場所に何が入っているのか紙に書いて張り付けておけばいいのではないかと思ってしまう。そしてようやく見つけたらしい声が上がった瞬間、クラウドの予想は見事に現実へと姿を変えた。
「あ、あったあった!あーでもあんまり残り少ないなー、まぁ今日はこれでいっか!とう!」
とう!じゃない。掛け声と共に飛び降りようと彼女の足に力が入り膝が曲がった。そのまま椅子から飛び降りる算段なのだろうが、力を入れるにしては椅子はそんなに安定していなかった。何分彼女の乗っていた椅子はキャスタータイプである。座ったまま滑っていけるアレである。そんなの大きく動けばぐらつくに決まっているだろうに。待っていてよかった、と彼女を受け止める為にクラウドが腕を広げた。姿勢を崩されて変な声を上げる彼女に事前に別の椅子にしろと言わなかった自分も悪いかもしれないなどと甘やかした事を考えていたクラウド。彼の予想ではこのまま後ろに倒れてくる彼女の小さな身体を受け止めて床に降ろすはずだった。だが彼女がそれだけで終わるなどと、どうして思ったのだろうとクラウドは後で自分に問いかけるのだ。
「うわわ!てい!」
「てい?」
今度はてい!だなんて掛け声を上げたかと思えば、あろうことか彼女はクラウドが受けとめようと待つ場所ではなく横に逸れて倒れて行く。恐らくこのまま落ちて堪るかと彼女なりに状況を打破しようとした結果だろう。目の前で無駄な抵抗を繰り広げてあらぬ方向へ落ちて行く彼女に呆気に取られ、クラウドは目を丸くして危うく見送ってしまう所だった。
だが持ち前の反所神経を総動員して身体を動かし、横に倒れて行った身体に身体ごと向かった。彼女の黒い髪がバラけて流れる。目を固く瞑った顔が正面に来る。彼女が落ちる前に回り込み、掻き抱くようにして小さな身体を腕に収めた。しかし、いくら小さいと言っても成人女性をやや小さくしただけの重みは確かにある。それが重力に従って落ちてくれば、あんな咄嗟の動きであってはしっかりと抱きとめることも出来やしない。クラウドは傾いで行く部屋の内装を見ながら腕の力を強めた。
がたーん!と大きな音がして椅子が倒れた。床とゴッツンコだ!と覚悟を決めて痛みに対する我慢をするために意気込んでいたからして、来ない衝撃は不思議だった。代わりにある、硬いのに何だか弾力のある感触にもっと不思議だった。恐る恐る目を開けると、床の茶色の代わりに黒が広がっていた。一瞬自分の髪かとも思うが、すぐにそれが布地だと判断した。そして今度は疑問符を浮かべるより前に息を詰めた呻きが聞こえる。バッと勢いよく腕で身体を持ち上げると、そこには自分の下敷きなったクラウドが顔を歪めていた。
「ちょ!大丈夫!?生きてる!?」
「……っああ」
「ごめーん!ホントごめーん!頭打ってない!?どこ痛い!?」
しっかりと自分の腰を抱くクラウドが庇ってくれたのだと理解するやいないや、彼の安否が気になって仕方がない。そう言えば以前にもこんな体勢で騒いだことがあるなー、とそんな場合ではないのに魔晄炉から落ちた事を思い出した。これもまた逃避癖の思考回路のせいである。とにかくはそんな事はどうでもよくて、クラウドが心配だった。よく確かめる為にクラウドを覗きこむと、薄く目を開いて真っ青な瞳が見えた。ちょっとだけ潤んでいるのはそれだけの衝撃がクラウドにあったということだろう。生理的に込み上げてくる痛みの涙は堪えられないだろうと、やってしまったと彼女はクラウドに馬乗りのまま彼に近付いた。
「どこ!?どこ打ったの!?起きれる!?頭持ち上げれる!?」
クラウドを起こそうと後頭部に手を差し入れようとするが、その前に自分がどかないと起きれないだろうとまで気が回らない。そんな状態で身体を倒すものだから、クラウドの目の前に彼女の顔が来る。心配の色に染まった顔は今にも泣きそうだったが彼女が泣くはずもなく、ただそこで初めてこの距離に気付いて固まった。クラウドもぱっちりと目を開けて彼女を見返した。固まったまま、彼女はクラウドの頭を抱くように手を回し、クラウドの手は彼女の腰をしっかりと抱いて。
彼女がボッと顔を真っ赤にするのとクラウドが焦るのと、そこにたまたま顔を覗かせたティファが二人を見つけるのは同時だった。
「え!?え、えぇ!?な、何やってるの二人とも!!こんなとこで!!まだお昼よ!!」
「は!?ち、違うってティファ!!誤解誤解!!」
「やだもう!余所でやってよもう!!」
「違うってば!!話聞いてティファ!!これは事故だ!!」
ジンジンする頭で二人の言い合いを聞きながら、クラウドはこれからは高い場所にあるものは自分が取ってやろうと、また一人仕事を背負いこんだのだった。
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