ピロートーク

*「好きですよ、ちゃんと」続き



「鬼灯とするようになってから、したことない事ばっか」

飛んだ意識は、鬼灯に無理やり叩き起こされて現実に帰ってきた。2回戦付きで。
もう本当に動けない。私起きたら仕事なのに。
割と本気で体調不良の遅刻か下手したら休みをもらわないといけないかもしれないと、数時間後の私に思いを馳せる。

情事後の一服で雑に着物を羽織って煙管を蒸す鬼灯を、布団に横たわったまま眺める。ゆらゆらと紫煙が漂った。

「それは光栄ですね。ちなみにこちら、リリスさんからのご提供です」
「これ程までリリス様と貴方の交流を恨んだ事ないよ」

リリス様のことは大好きだし、鬼灯と交流があるおかげでまたこうしてお会いする機会が増えたのには本当に感謝してるけど、今ほど最悪の組み合わせだと思った事はない。正直妲己様よりタチが悪い。

「やっぱり、そんなものに頼るより鬼灯とする方が絶対いい」

うつ伏せになって枕に顔を沈め、溜め息混じりに呟くと、少し間を置いて鬼灯が「そうですか」と呟いた。

「もしかして照れた?」
「照れてません。ほら、寝ますよ」

寝かせなかったのはそっちじゃん。と思いながら少し端に寄って、空いた場所に鬼灯が寝転がる。
正直今すぐにでも眠りたかったが、情事中のやり取りをしていて、気になっていたことがあった。

「ずっと気になってたんだけど、鬼灯はいつから私のこと好きだったの?」
「いつでしょうね。考えたら、まだ丁と名乗っていた頃には貴方に気があったかも知れません」
「想像してたよりずっと昔だった」
「あの頃はそうだと思っていなかったと思いますが。他人にそこまで興味がない私が、唯一興味があった女性は貴方でしたね」

今日の鬼灯はよく喋る。情事中に言いたいこと全部言ったから、もう何でも言ってくれてるのかもしれないけど。
鬼灯の胸に擦り寄ると、抱き枕に手を乗せるように片腕が回った。
結婚しても鬼灯の抱き枕にされるのは、付き合う前から変わらないままだ。変わったことといえば眠る前にすでにこの姿勢が出来上がるようになったくらいだ。

「私も、皆と分け隔てなく遊んでたつもりだけど、鬼灯と一緒にいる時が一番楽しかったかな。もちろん、あの二人と一対一になってもちゃんと楽しかったよ」

そう考えると、私もかなり昔から鬼灯のことが気にはなっていたのかも知れない。だから、鬼灯が隠す気なくいた好意に不快感がなかったのかも。
鬼灯のこの調子は、問い正すには絶好のチャンスだと、気になっていたことを根掘り葉掘り聞いてみることにした。
お願いだからまだ眠らないでね。

「会わなかった間、ずっと私が好きだった?」
「これが所謂恋愛的な感情と気付いたのは、ここ百年くらいなので何とも」
「へぇ、そうなんだ。何があって気付いたの?」
「極楽満月の机に、貴方の名前が入った領収書があって、考えるより先に手が出てしまった時ですね」
「…うん、なんか、ごめん」

考えるより手が先に出て発覚したということと、きっかけが白澤様だったということにとりあえず謝る。
まぁでもこの間白澤様の余計な電話のせいで酷い目にあったし、同情はしない。

「言い寄ってくる女の子とか、いなかったの?ほら、大王様から鬼灯派白澤派の争いがあったとかも聞いたんだけど」
「そんな人がいても、私と付き合えると思いますか?」

いや、いないだろうなあ。衆合の女の子たちにも、鬼灯派だけど、お付き合いまではできない。あのサディストっぷりを受け入れてあげることができないと散々な言われようで、貴方がお付き合いと結婚できるのは昔馴染みだからだと言われたのを思い出す。
あの日はあまり腑には落ちず、何も言わずに微笑んだ。
そして今も、曖昧に微笑むと容赦無いデコピンが飛んでくる。
目を閉じて、じんじんするおでこを押さえた。

「結婚しようって急に言った理由も聞いた事なかったよね?流石に何もなくて急に求婚してこないと思うけど、どうして?」

さっきまでスムーズに答えが返って来ていたのに、この問いには鬼灯が黙り込む。
うそだ、寝た?と顔を上げようとすると、頭を押さえ込まれる。

「うわっ、なに」
「自分たちにもチャンスがあると意気込んだ阿呆を見かけて、手を打たなきゃと思ったんですよ」

これまた意外だった。
案外、嫌、いざ恋人になってみると案外でもないが、鬼灯は結構嫉妬深い。
でも、私が靡くなんて思ってもいなさそうだし、暴力権力で潰すくらいしそうなものを、周囲に私たちの関係を大っぴらにしていない中私に告白でもしようと意気込んだ獄卒を見かけて、急に食堂でそんな事を言ったというわけだ。

「付き合ってるって言っちゃえばよかったんじゃない?鬼灯相手ならみんな下手なことしないでしょう」
「恋人と夫婦は抑止力が違います」

まぁ、ごもっともで。
だからって牽制のために求婚する程だったのかと驚くが、白澤様への牽制方法がアレだったのを思うに、この人ならやりかねないなとも思う。

「貴方からその日のうちに答えが返ってきたのは想定外でしたけどね」
「だって今でも先でも変わらなかったから。あの場で伝えたのは、食堂で言われたことへの仕返しだったけど痛い痛い痛い」
「目の疲れに効く耳ツボです」

じゅわぁと温かくなる耳に、つくづく私たちは甘い雰囲気とは程遠い付き合いをしているなあと感じる。

「まぁ、普段なかなか言いませんが」

頭を押さえ込まれたまま、腕に少しだけ力が入ったのを感じた。

「これでも私なりに、貴方のことを愛しているつもりです」

夜も更けて静まり返った空間が、私たちが黙ったことにより静けさを増す。
耳ツボを押されて耳が熱いんじゃ無い。顔も、耳も、体の血が高速に巡って一気に熱くなる。
甘い雰囲気とは程遠い付き合いだと思ったばかりだったのに。
鬼灯が少しだけ私から離れて、私の埋もれた顔を確認すると、満足したように漏れ出る笑い声がした。

「答えが返ってきませんね」
「急にそんなこと言うのずるい」
「さあ、何のことだか」

腕を支えに上体を起こして、視線で私を追う鬼灯の唇に無理やり私の唇を押し付ける。

「ちゃんと伝わってるし私も愛してる!おやすみ!」

言い逃げるようにそっぽを向いて布団に戻る私を、鬼灯は鼻で笑いながらまた腕を回した。

「おやすみなさい」

今夜見る夢は、絶対にいい夢。

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