顔に触れる空気の温度感が、昼くらいだと教えてくる。
休みの日といえど流石に起きようと思うが、至る所が筋肉痛で顔を顰めた。
あんな体制で変に力んでいたら、体も痛くなるだろう。
痛む体に鞭を打って、鬼灯の腕を慎重に退かす。
今日もしっかり抱き枕にされてる。この人も大概人の温もりが欲しいのかもしれない。
ゆっくりと体を起こすと、下着と着物の布の端が鬼灯越しに見える。風呂に入ったはずなのに、私も鬼灯も素っ裸だった。
風呂上がりにもうひと盛り上がりあった覚えは無いけど、正直自信がない。
鬼灯のような人がたった一度出しただけで満足するのかと言われたら、果たしてそうだろうか?と答えてしまいそうだもの。
本の山が出来上がる足元から降りて身支度をしようとすると、突如鬼灯の目がかっぴらいた。
アンティークショップに置いてある呪いの人形が頭をよぎる。
「ひっ!?」
「…おはよう、ございます。今何時ですか」
バリトンボイスが掠れて深みがあるな、という思いはすぐに驚かされた勢いで早い拍動に掻き消され、思わず胸を押さえる。
そして何事もなかったように起き上がると、起きて床に散らばった服を全部回収してベッドに置いてくれた。
「あー、これ帰ってすぐに着替えたほうがいいですね。ほら見てください、ぐっちゃぐちゃ」
お気に入りのターコイズブルーの下着に染みついて、乾き切った私の体液が白くこびりついているのを見せられる。
そんなもの見せるなと、着物と下着をひったくって胸に抱えた。鬼灯が着衣なんて選ぶからこうなったのに。
「どうでした、私とのセックス」
「ちょっ…!そんな直接的な…」
「間違ってないでしょう」
そうだけども。でも、確かにこの人がえっち、なんて語尾にハートが付きそうな可愛らしいこと言うわけがない。まだ交尾と言われなかっただけいいのかも。
さて質問への回答は、迷うことなく一つ。ここで嘘をついては、昨日の私は何だったんだという話。
「…よ、かった、です」
正直、体の相性はとても良かった。
鬼灯自身がどう感じているかはさておき、私からすれば、こんなに気持ちよかったのは初めてかもしれない。
夜中を思い出してしまい、抱えていた着物を口元に持って行って目を逸らす。
ベッドが軋んで、鬼灯が隣に座った。
私がモジモジとしている間に、一人とっとと着替えているのだけむかつく。
「煽りに乗ってしまったので前後しましたが、私たち付き合いますか」
「…ほんとに、いいの?」
「ハァ?嫌じゃないは嘘ですか?それとも体だけの関係がお望みで?」
「違う違う!そうじゃなくて…」
微かに眉根を寄せて、どこぞの曲みたいなことをと言われる。今そんなこと言わなくていいでしょ。
脳内にサングラスに赤いジャケットのCDカバーが浮かんだのをかき消す。
「だって、鬼灯が好きだったのは、昔の私じゃない?自分で言うのも変だけど、今の私はほら、全然違うじゃん」
「貴方、大分昔の貴方に戻ってるの気づいてないんですか」
「…うそだ」
「居酒屋で久々に会った時は、猫でも被ってるのかと思ってましたけど」
そんなことは、まで言って口を閉じる。
この間技術科に連れて行ってもらい、数千年越しに再会した烏頭と蓬と昔話に花を咲かせた時は、特に何も言われなかった。
でも、目を瞬かせて記憶を辿ってみると、言われてみたら、確かにそうかもしれない。
その話が本当なら、あの二人からしたら話してても昔の私と大差ないわけなのだから。
居酒屋で再会した時は、周囲の視線もあり仕事モードだったことを考えると、昔を知る鬼灯からしたら猫を被っていたと思われてもおかしくない。
「そうなのかも?」
「というか、私が貴方を嫌いになるのなんて、仮に貴方がどぎつい性思考を持っていても無いかと」
「ひっどい言い方」
ムードもへったくれもないこの感じが、鬼灯らしいというか、なんというか。
鬼灯の頬は枕に押し付けられてちょっと赤いし、短い髪の毛が四方に跳ねてるし、方や私は服着てないし。夜中私をめちゃくちゃにした人とは思えないほど抜けた姿に思わず笑う。
「やっぱり昔の貴方じゃなくて好きじゃなくなりました、って言われても責任持たないからね」
隣に座る鬼灯の腕に手を回して、下から見上げる。
昔の私なら、こんなことできないもの。
「とりあえず服を着ろ。ムラムラする」
至極真面目に言い放った鬼灯の頭を最低だと軽く叩いて、脱衣所へ逃げ込んだ。
あの世の人生、何があるか分からないものね。