「鍵は?」
「持った」
「財布は?」
「…持った」
「携帯は?」
「もっ……あ、あれ?忘れた」
「持ってくるからそこで待っていろ」
玄関で自分の鞄をごそごそとしながら、彼氏である蓮二と忘れ物が無いかの確認。これが毎朝お決まりの光景。蓮二とは高校生の時から付き合っており、大学生になると同時に私達は同棲を始めた。意外にも提案してきたのは蓮二から。突然、「お前は危なっかしいから心配だ」とか言って。私の両親からも信頼を得ている彼は、同棲にも二つ返事で賛成してくれた。同棲を初めてまだ半年経たないが、未だにこの生活には慣れない。
スカートについている埃を払っていると、部屋から私の携帯を持った蓮二が戻ってきた。今日は私が一限からで蓮二は二限から。その為私の方が家を出るのが早い。それなのに蓮二は私より早く起きて朝ごはんを作ってくれていた。つくづく私なんかがこんな素敵な人と付き合っていいものなのか、と不安になってしまう。
「いつも、ごめんね」
「…何がだ?」
「色々迷惑かけちゃって。ご飯だってほとんど蓮二が作ってくれてるし」
「何を言っている。俺は名前にしたくてしているのだから、謝られる筋合いは無いな」
「…、ありがと。明日は私が朝作る」
「そうか。楽しみにしている」
そう言うと蓮二は私の携帯を手渡した。こんな会話も同棲ならではな気がして少し頬が緩んでしまう。
「今日は、昼は一緒に食べられそうか?」
「うん、特に何も無いし」
「そうか。それなら食堂集合でいいか?」
「うん、大丈夫。それじゃ、また後でね」
「あぁ」
手にしていた携帯を鞄の中へと仕舞い込み、扉に手をかけると「名前、」と後ろから声が聞こえた。私は顔だけ振り返り、蓮二の方を見る。
「ん?どうしたの?」
「まだ忘れ物、していないか?」
「え、もう無いと思うけど…」
「いいや。あるぞ」
そう言うが否や蓮二は私の腕を引っ張ると、そっと額にキスをした。
「行ってらっしゃいのキスだ」
「…ほんと馬鹿」
「たまにはこういうのもいいだろう?」
「よくない」
「素直じゃないな」
「もう…行ってきます」
「あぁ。また昼にな」
「はぁい」
今度こそ玄関の扉を開け、外へと出る。エレベーターに乗り、アパートのエントランスを抜けると、まだ朝早いこともあってスーツや制服姿の人たちがちらほらと道端を歩いていた。私もそこへ混じって駅の方へと向かう。
私達の一日はいつもこんな感じで始まる。