アラームの音で目が覚める
今日は日曜日。影山くんと再会するなんて凄い夢だったなぁ、なんて思いながら携帯を開いて現在の時刻を確認する。
午前8時と表示された画面に、メッセージアプリからの通知が表示されている
誰だろう、と開いてみると影山飛雄と書かれたアイコン。
……あれは、夢ではなかったんだ
ふと昨日買い物したコスメや服を取り出す。やっぱり、ある。昨日私は買い物に行き、その帰りに日向くんに会って、影山くんと再会した。
全て現実だったと再認識して、じゃあこのメッセージは
「おはよう、朝早くからすまん。今日って時間あるか」
げ、現実なのか……!!
嬉しいような恥ずかしいような、複雑だ。でもとりあえず私の人生において大変な事が起きているのはわかった
しかし穏やかで優しい彼とまた知り合えるのは本当に嬉しい。大人になればなるほど彼の優しさは素晴らしかったのだと実感していたところだ。また彼との友人として楽しい日々を手に入れるべく
「時間あるよ!ご飯でも行く?」
そう、彼に返事をした。
◇
昨日侑さんと黒尾さん、そして日向に飲みに誘われ、最初は断ったものの行ってよかったと心から思う。
まさか苗字とまた会えるとは。
苗字は高校生の時の俺にとって唯一バレーボールに関係の無い友人であり、唯一バレーボール以外で楽しいと思った時間を過ごさせてくれた人だ。
あいつは勉強の教え方も上手いし、でもだからと言って頭がすこぶる良い訳でもない。わからないなりに噛み砕いて教えてくれたから、当時の俺にとって女神のような存在だった。
人柄も優しく、穏やかで、俺が勉強以外の話をしても楽しそうに聞いてくれたり、知らなくて興味も無いであろうバレーの話をしても、嫌な顔1つせずいつも聞いてくれたのだ
一緒にいて、楽だった。あの頃の誰よりも。
話さなくても、気まずくなくて。でも話したら、楽しくて。そんな奴だったから、なんだかずっと一緒にいられたらな。なんて考えてた
その願望が届いたのか、ただ単に俺の勉強を見てもらう為か3年間俺たちは同じクラスでいられた。その分、苗字は俺の生活の1部になった
誰よりも心安らぐ相手である苗字と、これからも一緒にいられたらな。なんて考えもした。だが現実的に考えて苗字は地元の大学に進学する事を決めていたし、
俺はVリーグに入る事を決めてたので、それは無理なんだなと早々にその考えを打ち消した。
卒業式の日、苗字は俺にとってどんな存在だったかと聞いてきた。俺は、思ったままに答えた。それが、俺と苗字の最後の会話になってしまう。
俺は間違った事を言ったつもりは無かった。しかし、次の日から苗字と会わない日々が始まり、忙しくてそれ所じゃない日々だったが、ふとした時、疲れた時に苗字の事を思い出した。
そして、会いたい。話を聞いてもらいたい、優しく穏やかな気持ちにさせて欲しい。そう思う事が増えたのだ。
気づけば高校卒業してから数年が経っており、もう苗字に会える術なんて持っていなかった。なのに、そこまで手遅れになってから、
俺は苗字の事が好きだったのだと、気づいたのだった。
遅過ぎた、何もかも。もう跡形もなく消えてしまった優しい面影。自分が俺のせいで嫌がらせにあっていても、俺の迷惑になりたくなくて言わないような、優し過ぎる苗字。
悔しくて、少しだけ泣いた。あの時、卒業式の日もしかしたら苗字も同じ気持ちだったのでは無いか、とあの日の苗字を思い出すとそんな気さえした。
友達、そう言った時一瞬顔を歪めたのだ。当時は意味がわからなかったし、友達だと思われたくなかったのだろうかと悲しくなったりもした。しかし、たぶん、それは違った
もっと早くこの気持ちに気づいていたら、今も隣で苗字が笑ってくれていたかもしれない。
可能性があったのに、チャンスがあったのにそれを無駄にしたと言う事実しか残らなかった俺は次の恋愛なんて出来るはずもなく、
あの頃の写真なんて無いので、記憶の中で笑う苗字の思い出に縋っていた。
しかし、まだ神は俺を見捨てていなかったらしい
チャンスはまたも唐突に現れた
日向の後ろから姿を現したのは、あの頃よりずっと大人っぽくなった、綺麗になった苗字だった。
しかし、話す上で笑顔を零すと一気にあの頃の苗字に戻る
変わらない、優しい人柄が見えるような笑顔
もう会えないと思っていた、思い出の中でしかもう見れないと思っていた笑顔に危うく涙が出そうになった
今苗字に彼氏がいるのかどうかなんてわからない。いるならそれは…なんとかして諦めよう、迷惑にはなりたくない。
もしいないのなら、今度こそこのチャンスを無駄にしない
覚悟しとけよ、苗字。絶対また俺の事好きにさせるからな。
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