イタリアへ着いて、荷解きをした。


着替えなどは苗字がまとめてくれたので、綺麗に畳まれていて、分かりやすくわけられている。


こんな所でも苗字を感じてしまい、早くも会いたくなる。


しかも、家出る前のあれ。なんだよ。


思い出して顔に熱が集まる。不意打ちなんてずるいだろ、俺がやりたかったのに、逆にやられて心臓がうるさい。


一緒に住むようになって更に可愛く見えてしまった苗字。料理に洗濯、掃除。なんでもこなしてくれて、優しくあの頃のように話を聞いてくれる。


ふんわり笑う彼女に毎日癒され、朝起きてから夜寝るまで。毎日今日も好きだと思わされる。


苗字は俺の事どう思ってるだろうか。少なくとも愛情表現はしているつもりだし、大事にもしているつもり。


普通に考えて好きでもない女と毎日寝るなんて無理だと思うが、苗字がどう考えているかなんてわからない。


でも、のんびりだってしていられない。侑さんと黒尾さんに言われた


「いつまでも待ってくれると思うなよォ?」


「せやせや。苗字さん可愛いやん?飛雄くんもらわんのなら俺もらっちゃおうかなぁ?」


「すぐ虐めんなよー……うわぁ、か、影山その顔やめろ!!」


「うわぁ!?ご、ごめんて!!嘘やって飛雄くん!!冗談!!」


あんな風にタチ悪い人がいるかもしれない。苗字は優しいから、変な奴に捕まるかもしれない。


想像をし始めたら、日本に置いてきたあいつが心配になってきた。


イタリアに着いたばかりだが、電話してしまおうか?……思い立ったら即行動。俺は苗字に電話をかけた


「も、もしもし?」


「もしもし、俺だ。」


「あ、うん。…思ったより早く電話来たからびっくりした」


「すまん。…なんか電話したくなって」


「え!あ、そうなんだ…あはは、嬉しい。」


にこにこ笑う苗字が浮かぶ。絶対こんな表情をしてる。会いたい。笑顔が見たい。


「無事イタリアには着いた?」


「おう、デケェやつがいっぱいいる。」


「あはは、外国人って感じだね!」


「おう、負けねぇ。」


「頑張って!……そう言えば影山くんってイタリア語話せるの?」


「?おう、イタリア語と英語は話せる」


「何気にハイスペックじゃん……かっこいいねぇ」


「な、そんな、別にバレーに必要だから覚えただけだ。」


かっこいいなんてまた、不意打ちでくらう。苗字は俺を喜ばせる天才だ。


「今日から1人だけど、戸締り気をつけろよ」


「うん、……影山くん、」


「ん?」


「寂しい?」


「は、」


寂しいに決まってんだろ。毎日会ってて、毎日好きだって思ってたんだぞ。それが急に顔が見れなくなって、寂しくないわけが無い。


「あ、あはは!ごめん、冗談、」


「寂しい。当たり前だろ。」


「!……そ、そっか。…私も。」


数日前はこんな素直に言わなかったくせに。


あぁ駄目だ。まだ1日も離れてないのにもう会いたい。愛おしい。


「…苗字。」


「ん?何?」


「帰ったら、話したい事がある」


「…う、うん」


「大事な、話だ。聞いて欲しい。」


「……うん、聞く。影山くんの話はなんでも聞くよ。」


そうだ。苗字が話を聞かなかったことなんてない。いつだって優しい笑顔優しい声色で聞いてくれていた。


そしてそんな所がすげぇ好きだ。


だから、俺は日本に帰ったら苗字にこの想いを伝える。


誰にも渡したくない、俺の、俺だけにその笑顔を向けてくれ。


まだ遠征初日だと言うのに宣言してしまった。今日からの1週間、どうやって告白しようか悩んでしまうでは無いか。





「大事な、話だ。聞いて欲しい。」


そんな言い方をされると期待してしまう。


もしかして、もしかするのだろうか。


いやいや、でも……と考えるが、彼の行動や言葉などから、大事な話と言われると、それしか思いつかない。


うきゃあああっと巨大なソファの上で暴れ倒す。いやいや、まだ早い、浮かれるには早い。


なんて赤くなったり冷静になったりを繰り返していると、インターホンが鳴る


モニターを見ると、黒尾さんがいた


「はい!今日から来てくれるんですね!」


「おーう、こんばんは、苗字さん。顔は見ときたいから開けてくれる?」


「はい!」


下の自動ドアを開ける。今日も悪そうな笑顔だ。


「こんばんは!」


「はい、こんばんはぁ。元気そうね?」


「あ、はい。影山くんいなくなって、少し寂しいですけどね…」


「それあいつに言ってやりなよ?たぶん喜ぶから」


「言いました!」


「え?まじ?なんか言ってた?」


「あ、その……帰ったら話したい事があるって…」


「え!?は!!…まだ遠征初日だよね?」


「初日です…」


「うわぁ、もやもやすんなぁー、ドキドキしちゃうなぁー!!」


にやにやにやにや。は、恥ずかしい…


「う、ぐ、も、もやもやして過ごします!!」


「はは、頑張りなぁ。ほいこれ、あげる。じゃあまた明日ね。」


コンビニのビニール袋を渡され、帰ってしまった黒尾さん


中身を見ると、私が好きなチューハイとおつまみが入ってた。1人で晩酌しろと言うことだろうか。


1人だし、いいか。なんて思って早速開ける。


1本じゃあ流石に酔わないが、少しだけふわふわした気持ちになり、影山くんが恋しくなる。


早く、帰ってこないかなぁ。


早く、会いたいと、離れたくないと言える関係になりたいなぁ。