スマホに表示される人々の声。それらをソファーに座りながら眺めていると、眉間に皺が寄るのを感じる。
《影山選手の使ってたタオル、女物じゃない…!?》
《ヘアピンなんて使ってたっけ……もしかして彼女のとか?》
《お弁当食べてる写真あった!!前は食堂で食べてる写真、星海選手のアカウントで見たのに!!》
《影山選手、SNSの使い方すらよく分かってないのに、匂わせなんてするかな………。》
《案外、彼女の仕業じゃない?わざと持っていかせるとか。》
そ ん な わ け な い で しょ う!?!?
「飛雄くん!?」
床に座り込んで爪研ぎをしていた飛雄くんに声をかける。
「……ん?どうした、名前。」
「これ!見て!!」
「……あ?」
「飛雄くん、私の私物そのまま練習に持ってったでしょ!?」
ファン達のSNSを見ると、何故か私のタオルやヘアピンを使っている飛雄くんの写真が出てくる出てくる。
「飛雄くん、イケメン選手として有名なんだから気をつけてって言ったじゃないか…!」
「……悪ぃ、気づかなかった。」
「もう。今度から気をつけてね?」
「ん。………なぁ名前。」
「うん?」
「……お前の事、自慢したい。」
「うん??」
自慢?
「あぁ、だから、……彼女いるって公表しても」
「いい訳無いでしょう!?」
公表したら最後、誰だ誰だと騒ぎになり、我が家に週刊誌のカメラマンが殺到する未来が見える。
ただえさえ色恋沙汰に縁のなさそうな態度や、バレーに対する気持ちを持っているのに、彼女いますなんて言ったらメディアの良い餌になってしまう。
「飛雄くんもメディアの対応とかで大変になるかもしれないし、絶対に辞めた方がいいと思う。」
「……でも、もう隠すの嫌だ。」
嫌だ。なんて可愛い言い方してくるんだこのイケメンめ。
確かに隠していく事も飛雄くんには少しストレスを感じているようで、以前から何度か交渉された。
「そ、それでも駄目。……今の穏やかな生活を壊したいの?」
可愛く小首を傾げてくる飛雄くんから目を逸らして、なんとか迎え撃つ。面と向かって否定する勇気は無い。
「……………………わかった。」
しょんぼり。そんな擬音が似合いそうな程に落ち込んでしまった飛雄くん。
こんな素敵な彼氏に、私の事を世間に公表して自慢したい。なんて言われて嬉しくない訳が無い。そんな訳は絶対に無いのだ。
しかし、彼と私の生活を守る為なら仕方が無い。飛雄くんには申し訳ないが、頑張って黙ってて貰おう。
にしても八の字に下がった形の良い眉を見ると、可哀想にもなってくる。
「……飛雄くん?」
「……ん?」
「落ち込んでる?」
「……ちょっと。」
うぅ、ごめんね。思わずぎゅ、と抱き着く。するとそのまま腕を回され、抱き込まれる。
「……俺の彼女は、こんなに可愛い。って言いたかった。」
「うっ…………ごめん。」
「俺の彼女は料理も美味いし、家事全般やってくれるしすげぇって言いたかった。」
「…………ご、ごめんなさい。」
なんか、褒め殺されてる気がする。恥ずかしくて頬に熱が集まる。
「……いつになったら良いんだよ。」
「………えぇ?いつだろう。」
結婚?なんて最初言いかけたが、まだ若い私達。結婚の話題を出すにはちょっと重すぎやしないか。
「わかんねぇのかよ。」
「わかんない………けど、飛雄くん。」
「ん?」
「公表するのは駄目だけど、…ちょっと変装して一緒にお出かけしませんか。」
今度のお休み、被ってるって聞いたから。そう続けて反応を見る。
いつもデートのお誘いは飛雄くんからばかりだったので、今回は我慢させてる申し訳なさから誘ってみる。
するとみるみるうちに目を輝かせる飛雄くん。
今日も本当にわかりやすいなぁ。
「おう、デートしようぜ。」
歯を見せて笑う飛雄くんに、愛しさが溢れる。
今日もかっこよくて可愛い彼氏にメロメロだ。
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