「ただいま。」


「おかえり!」


帰ってきた飛雄くんに駆け寄ると、抱き寄せられた。


「うわっ…ど、どうしたの?」


「………今日、話したい事がある。」


「えっ。」


「聞いてくれるか?」


「も、勿論。」


多少動揺してるのは許して欲しい。だって話したい事って何。すっごい真面目な顔してるし、怖くなってしまう。


もしかして、……………辞めよう、嫌な想像は辞めよう。


お風呂に向かった飛雄くんを見送り、不安に揺れる心を落ち着かせてキッチンに戻った。





「……………え?」


「…行っても、良いか。」


飛雄くんの話とは、私が想像していたようなものではなくて、でも、


私とは一緒にいられない、という話で。


「………イタリア。」


遠いなぁ。


「……悪ぃ、でもずっと考えてて。海外リーグに挑戦する気はずっとあった。」


イタリアのチームに移籍。


そうなれば勿論イタリアに移住だし、私なんかとこうやって会ってる時間は格段に減る。今一緒に住んでいるんだから遥かに少なくなるだろう。


本心で言えば、嫌に決まっている。恋人と離れたい人なんているのだろうか。


でも、私に飛雄くんを止める権利なんてどこにも無い。


彼の中での1番はバレーで。今や生活をかけたバレーをしている訳で。


きっとここで私が嫌だと言ったら、彼は私を日本に捨ててイタリアに飛ぶのだろう。


それが悪い事だとも思わない、それだけバレーボールに真っ直ぐで一途なだけだ。


私が頷いて、恋人のまま遠距離恋愛を続けるか。


私が首を横に振り、ここで別れるか。その違いだけなのではないだろうか。


きっと飛雄くん本人は私がこんな事考えているなんて、露ほども知らないだろう。


「…飛雄くんがやりたい事なら、応援するよ。」


出来るだけ自然な笑顔を浮かべて、そう伝える。


すると安心したように緩んだ彼の表情。


それでもやっぱり私は飛雄くんと一緒にいたい。一緒にいて良い所にいたい。


「浮気、しないでね?」


イタリア人のお姉さんなんてとんでもなく美人が多そうだ、飛雄くんと並んでもバランスの良いような足長お姉さんたちが。


「…そんなの、する訳ねぇだろ。」


ムッ、唇を突き出した飛雄くん。その可愛い唇にキスをして、抱き着く。


イタリアに行くまでの同棲生活。少しでも飛雄くんの温度を感じて感じて、感じ切ってから送り出したい。


「……そうだよね、飛雄くん私の事すっごい好きだもんね。」


なんて冗談で言ってみる。すると突如感じる浮遊感。


「うわっ!?」


そのまま無言でベッドまで運ばれ、降ろされる。


「と、飛雄くん…?」


「……あぁ、名前の事すっげぇ好きだ俺。」


「え。」


おでこに口付けられる。


「名前と離れるの俺もしんどい。……だから、一緒にいられる内は沢山愛情表現するからな。」


何を言って、そう言おうとした口は、するりと服の中に入り込んでいた手によって、官能的な声に変わってしまう。


「愛してる、名前。」


そう愛おしそうな、けれど扇情的な表情を浮かべた飛雄くんに私は苦しいほどに愛された。