「あれ?意外と元気そう?」


「意外とって……これでも結構回復しました!」


目の前で悪い笑みを浮かべるのは黒尾さん。今日も悪そうで良い人だ。


飛雄くんがイタリアに飛んで早数週間。


彼が日本を発ってから少しして、私も引っ越した。


あの家は一人ぼっちには寂しすぎる。飛雄くんはあのまま住んでて欲しそうだったけれど、私が耐えられそうも無かったので、お断りした。


以前住んでた家よりかなり狭くなった家。でも、私にはこれくらいでお似合いだ。寂しさ的にも金銭的にも。


そして新しい生活、新しい家で頑張ってみたが、黒尾さんが来る、ほんの少し前まで私は寂しさにのたうち回っていた。


だって、毎日顔が見れたし毎日のように愛情表現だってしてくれていた飛雄くんが今や海の向こう。


簡単に慣れる訳が無い。むしろ簡単にネガティブ思考に陥るようになった。


本当に浮気してしまったらどうしよう、もう日本に戻ってきてくれなかったらどうしよう。飛雄くんの事を信用していない訳では無い、でも、遠く離れた距離と時差は私の心を暗く落ち込ませた。


それでも何とか立ち直って、今日黒尾さんと会うことが出来た。


「それにしても急に、どうしたんですか?」


「いや?この辺に引っ越したって聞いてたし、ってのと、今から日向と侑と呑みに行くけど、来る?ってお誘いに。」


日向くんと宮さん。賑やかな人達だ。日々暗く落ち込んでいた私には良いかもしれない。


「はい、お邪魔します!!」


そう言うとにやり、また悪い顔して笑われた。





「いや、ぜっっったい飛雄くんの方が心配しとるやろそれ!!」


「え?」


「あ、侑さん酔ってます…?」


「ほっとけほっとけ、何喋るかわからんから録音しとこ。」


心配する日向くんとケタケタ楽しそうに笑う黒尾さん。


「だって、苗字さん美人やん!!絶対飛雄くん心配で心配で仕方無いけど置いてったと思うで!?」


「おーい、侑、これ録音してるからなー?後で影山に送るからなー?」


「だって俺も苗字さんやったら付き合いたいなぁ、って思うで!?そんくらい良い人やんか自分!!」


「あー……これは修羅場確定動画だな…。」


「影山怒り狂うんじゃないっすか…?」


「良い人、ですか……?」


「せやせや!!美人やし料理も美味いんやろ?優しいし仕事もちゃんとこなしてて、文句無しの良い女やろ!!」


なんでだろう、宮さんに言われると胡散臭いと思ってしまうのは。


完全に酔っ払ってる宮さんにあははは…と笑いを零す。飛雄くん、心配とかするのかなぁ。


日頃男性との関わりがあんまりない為か、飛雄くんが嫉妬してるのなんて見たことが無い。そもそもそんな感情が彼に備わっているのかすら怪しい。


「…日向くんは、どう思う?」


「え!?俺!?……そうだなぁ、影山は苗字さんの事すっごい大事そうだったから、少なくとも日本に置いていくのは嫌だったんじゃない?」


「…そうなのかなぁ。」


「うん。きっとそうだよ。本当は一緒にイタリアに行きたかったのかもしれないね。」


「え!?」


そんな言葉、飛雄くんから聞いた事ない。


「でも、そんな事言ったら苗字さん困っちゃうだろ?あいつなりに気を使ったんじゃない?」


「……流石元相棒、だな。」


「ほんまや、テレパシーでも出来るん?」


「そんなの出来ませんし、あいつとテレパシー出来ても嬉しくないんですけど!?」


そうからかわれる日向くんを見て、笑ってしまう。


そっかぁ、飛雄くんも私の事考えてくれたのかなぁ。


だとしたら嬉しい、なぁ。


するとメッセージを知らせるスマホ。


開いて見ると、今考えていた飛雄くんからのメッセージ。今の向こうはお昼かな。


今日も送られてきたなんてことないチームでの出来事や、イタリアでの出来事に笑みを浮かべる。


本当なら、イタリアに私を連れて行って、直接話したかったことをこうやってメッセージを飛ばしているのかな。


そう考えたら、愛しさが込み上げてきて、返事の最後に大好きだよ。と付け加えた。


すると返ってきた愛してる。ただの文字の羅列なのに、飛雄くんからの言葉だってだけで、こんなにも嬉しくて仕方が無い。


「ほぉぉぉ……お熱いようで。」


にやぁ。


x3。恥ずかしくなって顔を覆うと楽しそうな笑い声が聞こえた。