『寂しくねぇか、大丈夫か。』


そう入力しては、消す。


寂しいのは俺の方だろう。はぁ、と額に手を置いてため息をつく。


イタリアに飛んで早数週間。名前には出来るだけ毎日メッセージを飛ばしている。


時差の計算なんて難しくて出来ねぇ。と思ったけれど、名前へ夜中に連絡しないように気をつけていたら、いつの間にかすぐに計算出来るようになった。


イタリアでの生活はそれなりになんとかなっている。


語学は一応勉強してから行ったし、大体身振り手振りでいけたりもする。


バレーの方も順調で、この間初めてピンチサーバーとして試合に出れた。


早くセッターとして出たい。と焦る気持ちもあるが、数ヶ月でここまで来れるとは思ってなかった部分もあり、嬉しくもなる。


しかしバレーと生活が落ち着いた時、ふと寂しさを感じる。


名前のいない生活。相も変わらず苦手な家事は最低限しかやっていない、自炊も全然だ。


あいつの作る飯が食べたい。話を聞いて欲しい。


それに、ただ何をする訳でもなくそこにいて欲しい。そう思う事が増えた。


寂しいのは俺の方だ。名前は俺がイタリアに行く日も笑ってた。メッセージや電話でもいつも明るい。


意外と俺よりずっと逞しいのかもしれない。そう考えて、少し笑ってしまう。女性は強いって言うしな。


そんな事を考えているとメッセージが来たことを知らせる通知。


スマホを開けば黒尾さん。


『おーい、酔っぱらいがお宅の彼女口説いてんぞー。』


そう送られた後に来た動画。


タップして再生すると、侑さんが名前を褒めまくっていた。良い女だとか。


そんなの当たり前だし、何より黒尾さんの言う通り、口説いているように見える。


幸い映りこんだ名前の表情からしてあまり相手にしていないのが見て取れるので、そこまで怒りは湧かなかったが、良い気分では無い。


『ありがとうございます、侑さんに言っときます。』


『ちゃんと見張っとかないと、誰かに盗られちゃうかもよ?』


それは、黒尾さんも口説くつもりでもあるという事だろうか。


眉間に皺が寄るのを感じる。


必死になって引き止めて、一緒に住むようなんとか言いくるめて、やっとの思いで付き合えた名前。


それを、誰かに盗られる。想像しただけで気が狂いそうだ。


なんだかいても立ってもいられず、俺は名前に電話した。


『もしもし!』


「悪ぃ、急に。」


『大丈夫だよ、どうかした?』


「…昨日、黒尾さん達と飲みに行ったんだな。」


『え?なんで知ってるの?』


「黒尾さんから動画送られてきた。名前が侑さんに口説かれてる。」


『……口説かれたっけ。』


真剣に悩んで、そんな事を言う名前に笑ってしまう。


もはや口説かれてると認識してないほどに、些細な事だと片付けたらしい。心配する必要は無かったな、と安心する。


「いや、覚えてないなら良い。その反応だけで充分だ。」


『そ、そう?……もしかして、ちょっと心配した?』


「…………ん。黒尾さんに、ちゃんと見張っとかないと盗られるぞって言われたから。」


『えぇ!?そんな事あるわけないよ。私飛雄くんにメロメロだし。』


笑いながらそんな事言う名前に思わず顔が熱くなる。ほらまたそういうの。サラッと言ってくるのずりぃ。


「……心配なもんは心配なんだよ!浮気すんなよ!?」


『あはは!大丈夫だよ、安心してバレー頑張ってください!』


当たり前のように俺の背を押す名前。


「………おう!」


そんな彼女が日本で待ってる。それだけで俺はなんでも頑張れる気さえした。