前は、これが当たり前だったのに。
「寂しい、なぁ。」
こんな事を呟いた所で彼が戻ってくる訳でもないのに。
乗り越えたと思っていた壁は厚く、私はまた孤独に苦しめられていた。
◇
「えぇー?それはぁ、彼氏に言っても良いと思いまぁす。」
「はーい、俺も思いまーす!!」
背が高くて逞しい体付きをしている男性2人が可愛こぶっている。思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「そうですかね…。」
「そうだそうだ。むしろ、俺達が相談されてて影山が相談されてないって知ったらキレるんじゃねぇ?」
「いや、苗字さんにはキレないですよ。影山苗字さんには超甘いんで。」
キリッと真面目な顔して話す日向くん。甘いんですか…。
それに対して、確かに。と頷く黒尾さん。
今日も今日とて、こんな相談を聞いてくれるおふたりに感謝しかない。影山くんは良き知り合いが多いようで。
「寂しいって言ったらあいつ、すぐ飛んでくると思うよ?」
「うーん……でも…迷惑にはなりたくないなぁ。」
「いやいや、彼女に寂しいって言われて迷惑って思う男じゃねぇだろ、あいつは。むしろにやぁって笑って戻ってくるんじゃない?」
こんな風に、と悪い笑顔を浮かべる黒尾さん。今日もよくお似合いですよ……!
「そんなに気にしなくても、思ったままの言葉を影山に言ってやったらいいと思うよ?」
そう言ってくれる日向くんに、頷く。そうだね、1度話してみようかな。
「ありがとうございます、2人とも。……ちゃんと言ってみます。」
「おう、今度は惚気を聞きに来ようかな?」
「頑張って!苗字さん!」
2人の両極端な笑顔に見送られ、私は小さな決意を固めた。
◇
「………よし。」
意を決してタップした通話ボタン。
数コールの後、聞こえた今日も良い声をしてる彼。
『もしもし。』
「も、もしもし!」
『ふふ、何どもってんだよ。』
「い、いや……。」
緊張してしまう、自分の本音を言う事ってこんなに大変な事だっただろうか。
『今日は何してた?』
「今日はね、黒尾さんと日向くんとご飯行ったよ!」
『あの二人か。仲良いよな。』
「そうなの、色んな話を聞いて貰っちゃって。」
『へぇ、どんな話?』
き、来た。話すチャンス。すぅはぁ、深呼吸をして気持ちを声に出す。
「……寂しいって話。」
『…名前が?』
「…うん。寂しいよ、飛雄くん。」
思い切って言ってみた。
しかしながら、返ってきたのは沈黙。
何も言わない飛雄くんに心配になる。
『…………俺も。』
「え?」
『俺も、すっげぇ寂しいし会いたい。』
すぐ飛んでくると思うよ?黒尾さんの言葉を思い出す。
『…………でも、』
「…でも?」
『…でも、まだ、そっちには帰れねぇ。この間初めてスタメンに選ばれた。今大事なとこなんだって自分でも思ってる。』
あぁ、駄目だ。
今日も凛々しい飛雄くんの声。いつもは声ですらかっこいいよなぁ、と思うけれど、
今日は、今日だけは酷く突き放されたような気持ちになってしまって、
「……そっかぁ。そうだよね、飛雄くんは、それどころじゃないよねぇ。」
そう自分自身に言い聞かせる事に必死だった。
『…ほんと、悪い。今じゃなければ今すぐにでも日本に戻ってやりてぇけど、』
「ううん、大丈夫だよ。」
今大事なのはバレーだよ。
「今大事なのはバレーだよ。」
私は大丈夫だから
「私は大丈夫だから」
『…名前?』
心配しないで。
「心配しないで。」
何も考えるな、何も考えるな。
自分の感情を出してしまえば、電話越しとは言え飛雄くんの前で泣いてしまう。
バレーに勝てないなんて知っていたし、勝ってはいけない存在だってわかってる。
でも、いざその場面に。選ばれなかった場面に遭ってしまうと、私の心はつんざくような悲鳴を上げることしか出来なくて。
「今日はもう寝るね、おやすみ。」
『おい、名前!!』
まるで拗ねてしまった子供のように、私は彼からそっぽを向いた。
電源を落としたスマホを見て、やっと食いしばっていた歯を解放する。
すると瞳から、喉から、溢れた悲しみ。
あぁ、まるであの時のようだ。
高校三年生、路上で蹲って泣き叫んでいたあの時のようだ。
止まらぬ嗚咽と涙。私はまた、バットエンドな恋をしているのだろうか?
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