『おはよう、昨日はごめんね急に電話切って。今日も練習頑張って!』


朝になって通知が来ていることに驚き、急いでメッセージアプリを開くと表示された、名前からのメッセージ。


びっくりマーク。これ、信用していいのか駄目なのか。


昨日の電話。途中から感情がわからない名前の声に動揺し、一方的に切られてしまった。


その後勿論かけ直したが、出ず。メッセージも飛ばしたが返って来ずで困り果てていた。


何か、怒らせてしまったのだろうか。


と言うより、寂しいと言う気持ちに対して今日本に帰れない。と言う返事は駄目だったのだろうか。


それでも、嘘は言えない。本当に今は駄目なんだ。


名前なら分かってくれる。そう思って言った言葉はこんな結果を生み出して、


今も尚、メッセージは返って来るのに電話は出て貰えない始末。


悪かった。時期が来たらすぐに帰るから。そんなメッセージ達はありがとう、わかった。なんて塩気たっぷりな返事で打ち返され、それらからは微かに怒りすら感じる。


どうしたら良いんだ。本当なら今すぐにでも会ってちゃんと話したい。


でもそれが出来ず、……バレーを捨ててまで行けば良いのか?


いや、それを名前が望んでいるとは思えない。なんとなく、今全てを投げ出して向こうに帰ったとして、それはそれで怒られる気がする。


じゃあ、本当にどうしたら良いんだ。


ちゃんと見張っとかないと、誰かに盗られちゃうかもよ?


ふと、黒尾さんの言葉を思い出す。


盗られる。


ぞわ、と背筋が凍る。


盗られる、このまま名前との関係が悪化したら盗られる。または、フラれる。


でも会うことも出来ないし、電話にも出て貰えない。


どうしたら良いのかわからなくて、苛立ちから頭をガシガシと掻く。


困りに困った俺は、人間関係のプロだと思っている先輩に助けを求めた。





『なるほど。………なぁ影山?』


「はい。」


『俺、彼女いるなんて初めて聞いたんだけど?』


「?今言いましたからね。」


『そう言うのは!すぐ言えよおお!!そんな楽しい事黙ってたなんてずるいぞ!!』


今日も激しい感情を振り回す菅原さんに、若干引きながらも相談する。


「それはすんません。……あの、どうしたら良いと思いますか。」


『うーん…………今はそっとしとくべきじゃねぇかな?』


「えっ。」


ほっとけと言うのか。ほっといても、大丈夫なのか。


俺の元を去ってしまわないか、心配で心配でほっとくなんて出来ない。


「……俺、フラれませんか。ほっといたら。」


『うーん、そうかもな!!』


「え!?」


『もしかしたら、彼女の中で今考えてるのかもしれねぇし。』


「何を、ですか。」


『お前とこのまま付き合うかどうか。』


「っそんなの!!だったら尚更引き止めねぇと!!」


『お、落ち着け!?…でも、今は影山の声が聞きたくないって意思表示されてんだろ?電話出て貰えないってことは。』


……俺の事、もう嫌いになったかもしれねぇのか。


『だから、今は自分で考えてるんじゃねぇかな?………っておい!?落ち込むにはまだ早いからな!?』


「だって……それフラれ待ちじゃないっすか……。」


『わかんねぇーべ!!もしかしたら、今頑張って乗り越えようとしてくれてて、ちゃんと寂しさとも向き合えたらまた会ったり話したい。って事かもしんねぇべや!!』


そうだろうか。もう、俺の元には戻ってきてくれない想像ばかりが膨らんでいく。


「………わかりました。」


『とにかく、今はしつこく連絡すんのは辞めとけ?嫌われるぞー?』


「…もう嫌われてるかもしんねぇし……。」


『ネガティブやめろー!!?まぁ、あれだ。彼女さんのこと信じてやれよ!』


フラれたら、慰めてやっからよ!そう言ってくれた菅原さんとの通話を終えて、ベッドに転がる。


名前。………………名前、俺はもう隣に居られねぇのか?


日本での記憶の中で笑う、優しい面影。


あぁ、あの時みたいだ。


高校を卒業してから、名前が好きだったと気づいた時。


気づけば手の届かない場所に消えてしまった名前。


まるであの時みたいに、名前の気持ちが見えない。


もう、俺に対する気持ちは消えちまったのかな。