『おはよう、昨日はごめんね急に電話切って。今日も練習頑張って!』
朝になって通知が来ていることに驚き、急いでメッセージアプリを開くと表示された、名前からのメッセージ。
びっくりマーク。これ、信用していいのか駄目なのか。
昨日の電話。途中から感情がわからない名前の声に動揺し、一方的に切られてしまった。
その後勿論かけ直したが、出ず。メッセージも飛ばしたが返って来ずで困り果てていた。
何か、怒らせてしまったのだろうか。
と言うより、寂しいと言う気持ちに対して今日本に帰れない。と言う返事は駄目だったのだろうか。
それでも、嘘は言えない。本当に今は駄目なんだ。
名前なら分かってくれる。そう思って言った言葉はこんな結果を生み出して、
今も尚、メッセージは返って来るのに電話は出て貰えない始末。
悪かった。時期が来たらすぐに帰るから。そんなメッセージ達はありがとう、わかった。なんて塩気たっぷりな返事で打ち返され、それらからは微かに怒りすら感じる。
どうしたら良いんだ。本当なら今すぐにでも会ってちゃんと話したい。
でもそれが出来ず、……バレーを捨ててまで行けば良いのか?
いや、それを名前が望んでいるとは思えない。なんとなく、今全てを投げ出して向こうに帰ったとして、それはそれで怒られる気がする。
じゃあ、本当にどうしたら良いんだ。
ちゃんと見張っとかないと、誰かに盗られちゃうかもよ?
ふと、黒尾さんの言葉を思い出す。
盗られる。
ぞわ、と背筋が凍る。
盗られる、このまま名前との関係が悪化したら盗られる。または、フラれる。
でも会うことも出来ないし、電話にも出て貰えない。
どうしたら良いのかわからなくて、苛立ちから頭をガシガシと掻く。
困りに困った俺は、人間関係のプロだと思っている先輩に助けを求めた。
◇
『なるほど。………なぁ影山?』
「はい。」
『俺、彼女いるなんて初めて聞いたんだけど?』
「?今言いましたからね。」
『そう言うのは!すぐ言えよおお!!そんな楽しい事黙ってたなんてずるいぞ!!』
今日も激しい感情を振り回す菅原さんに、若干引きながらも相談する。
「それはすんません。……あの、どうしたら良いと思いますか。」
『うーん…………今はそっとしとくべきじゃねぇかな?』
「えっ。」
ほっとけと言うのか。ほっといても、大丈夫なのか。
俺の元を去ってしまわないか、心配で心配でほっとくなんて出来ない。
「……俺、フラれませんか。ほっといたら。」
『うーん、そうかもな!!』
「え!?」
『もしかしたら、彼女の中で今考えてるのかもしれねぇし。』
「何を、ですか。」
『お前とこのまま付き合うかどうか。』
「っそんなの!!だったら尚更引き止めねぇと!!」
『お、落ち着け!?…でも、今は影山の声が聞きたくないって意思表示されてんだろ?電話出て貰えないってことは。』
……俺の事、もう嫌いになったかもしれねぇのか。
『だから、今は自分で考えてるんじゃねぇかな?………っておい!?落ち込むにはまだ早いからな!?』
「だって……それフラれ待ちじゃないっすか……。」
『わかんねぇーべ!!もしかしたら、今頑張って乗り越えようとしてくれてて、ちゃんと寂しさとも向き合えたらまた会ったり話したい。って事かもしんねぇべや!!』
そうだろうか。もう、俺の元には戻ってきてくれない想像ばかりが膨らんでいく。
「………わかりました。」
『とにかく、今はしつこく連絡すんのは辞めとけ?嫌われるぞー?』
「…もう嫌われてるかもしんねぇし……。」
『ネガティブやめろー!!?まぁ、あれだ。彼女さんのこと信じてやれよ!』
フラれたら、慰めてやっからよ!そう言ってくれた菅原さんとの通話を終えて、ベッドに転がる。
名前。………………名前、俺はもう隣に居られねぇのか?
日本での記憶の中で笑う、優しい面影。
あぁ、あの時みたいだ。
高校を卒業してから、名前が好きだったと気づいた時。
気づけば手の届かない場所に消えてしまった名前。
まるであの時みたいに、名前の気持ちが見えない。
もう、俺に対する気持ちは消えちまったのかな。
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