おはようとおやすみをメッセージで送りあって数日。
文字の上では重ねた会話でも、未だ電話をかける勇気が出ない。
本音を言うのって難しい。それに、受け入れてもらうのも難しい。
こんなんで私は飛雄くんの彼女、やっていけるのだろうか。
◇
「……………あらまぁ、この間の元気はどこに行ったんだ?」
にやにや。
「………黒尾さん。何か御用ですか?」
「いんやぁ?風の噂で苗字さんが死にそうだって聞いてね?」
どんな噂!?
「し、死にそうだなんて……絶好調では無いだけです。」
「ほーん?何かあったの?てか入れてよ。」
「あ、はい。どうぞ。」
扉の外で立ち話もなんだから、とリビングに通そうとすると、
「あー、いや、ここで良いよ。座らせてもらえれば。」
よっこいしょ、と言って、玄関に靴も脱がずに腰を下ろす黒尾さん。
「え!?いや、フローリング痛いですよ、リビングまでどうぞ!?」
「んー……流石に影山怒らせたくないからねぇ、俺はここで良いよ。んで?何があったわけ?」
うぐ、と息を詰まらせる。何が、と言うか。私が勝手にショックを受けて拗ねて連絡取りづらくなっただけなのだ。
恥ずかしくて言えない。いい大人なのに何してんだって話だ。
「…………何も。」
「はい、嘘ー。聞くまで俺帰らないよ?」
「……黒尾さん、顔が悪い人になってますよ。」
「元々こういう顔だからね?仕方ない仕方ない。で??」
「………………実は、」
諦めた私は、愚かな自分の話をした。
「……なぁるほど。」
「いやほんと、わかってます。わかってますよ、拗ねるなんて子供じみてるってわかってます、でも、」
「わかったわかった、ちょっと落ち着け?……苗字さんも、まぁ、ちょっと感情的になったんだろうけど、影山も影山だ。」
「…え?」
「あいつも直球過ぎる。いくら事実がそうであるとは言え、もう少し苗字さんの事考えて、言い方を柔らかくするぐらいは出来たんじゃねぇの?」
「…………………………確かに、とは思いますけど、飛雄くんにそんな技術があるとは、」
「うんわかる、無いよね絶対。」
ケタケタ笑う黒尾さん。ごめんね飛雄くん。バカにしてる訳じゃないんだ、事実というかなんというか…。
「まぁ?そんなド直球ストレートしか言えない奴と付き合ってるんだ、苗字さんもド直球で殴り合いでもしてみたら?」
殴り合いって!?
「……で、でも、また突き放されたらって思うともう本音を言う勇気が出ません……。」
「…それじゃあ、ずっと本音を言わずに付き合ってくの?」
核心をつく言葉。
そんなの、無理に決まっている。
「……じゃー、話さないと。殴り合わないと!幸い?シーズンオフも近いし。流石にシーズン中は向こう大変だろうから、シーズンオフ入ったら、ちゃぁんと本音をぶつけ合ってみたらどう?」
「…………はい。ありがとうございます、黒尾さん。」
いつもいつも的確な助言をくれるお兄さんに頭を下げる。
「いいえ、それじゃ俺は帰るわ。仕事も終わったし。」
「仕事?」
「………あー。いや、なんでもない。それじゃーね。」
にぃ、と今日も悪い笑みを残して去っていった黒尾さん。
シーズンオフまであとちょっと。
……………もう一度、勇気を出さなければ。
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