「あれ……?あれ、あれ!?!?」
家の中から聞こえる冬美ちゃんの声。どうしたのかと思って顔を覗かせると、
「あ……!ヒーロー名さん!おはよう!」
「お、……おはよう。…………えと、……どうしたの?」
「実は焦凍がスマホ置いていっちゃってて……何かあった時に困るよなぁ。って思ってね……でも届けに行ってる時間も無いし……。」
あぁ、どうしよう…………!!そう言って困り果てた冬美ちゃん。
確かに、スマホは何かあった時に必要だ。ましてや焦凍くんはヒーローの卵。何か、と言うのに日頃から近いんだ。持っているに越したことはない。
……とは言え私もエンデヴァーのお迎えに自宅まで来ただけであって、学校まで行ってる暇は
「ヒーロー名、悪いが届けてきてくれないか。」
「!!?」
「え……お父さん!?」
「出迎えご苦労だった。ここからはもう良いから、学校まで行ってきてくれ。」
「で、でも……。」
私は焦凍くんとほとんど会話したこと無いんだ、数回言葉を交わした程度で、向こうは覚えてるかどうかさえ、
「悪いが他の奴は出払ってる。お前にしか頼めない、任せたぞ。」
そう言い残して去ってしまったエンデヴァー。なんと言う理不尽、酷いよボス。
「えと……ごめんね、ヒーロー名さん。」
「…………いや、…………でも、焦凍くん私の事……。」
「え?……もしかして覚えられてないとか思ってる?」
ひとつ頷くと、冬美ちゃんはおかしそうに笑った。
「そんな訳無いじゃない!エンデヴァーヒーロー事務所の中でも、人気ナンバーワンのヒーロー名を知らない訳無いよ。」
「…………で、でも……。」
知らない子ばかりな学校に1人で行くなんて。と震え上がれば、
「大丈夫、ヒーロー名さんは皆の憧れだから。雄英行ったら超人気者だよ!それに焦凍も気づいたらきっと自分に用事だなって来てくれるだろうから、ね?」
「…………うん。」
「ごめんね、ヒーロー名さんが物凄く人見知りってわかってるのにこんな事お願いして。……はいこれ、お願いします!」
冬美ちゃんから受け取ったスマホを懐に入れて、私は震えそうな足を叱咤しながら彼女に頷いた。
◇
深呼吸をする。何度目かわからないけど。
雄英高校に辿り着き、インターフォンの前に来てまたも怖気付く。
ほんと、なんでヒーローやれてるんだろう私は。こんなにビビりで臆病者なのに。
そもそもエンデヴァーの事務所に入ったのも、こんな性格を直したくて。彼の怖い形相にも耐えられるようになりたくて入ったのに。
思っていたよりエンデヴァーは親切……と言うか無駄に怒らない人だったので今でも変わらず私はビビりだ。おかしいな。
でも、流石にインターフォン押すぐらいは頑張れ自分。すー、はー。もう一度深く呼吸をしてから、意を決して震える指先でインターフォンを押した。
『…………はい。』
「あ…………あの、…………わ、わたし、」
ああああ、上手く話せない。声帯から震えてる、ガクガク震えてる。姿も見えない相手に怖気付いて、本当に情けない。
『…………お前、苗字か?』
「!!!」
『やっぱり。仮面で顔隠しててもびっくりしてんのがわかるぞ。……相変わらず不気味な奴だな。』
不気味な奴。あなたもそう変わらないのでは、イレイザー。
『何か用か?轟か?』
お察しの良い先輩ヒーローに、首が引きちぎれんほどに頷く。
『わかった、入ったら通行許可証貰って教室に行け。クラスは1-Aだ。』
え。
「……い、イレイザー。」
『どうした?』
「わ、渡しておいて貰えるなら、許可証発行してもらわなくても、」
と言うか出来ればそうして欲しい。焦凍くんともろくに話せる気がしないんだ、情けない?知ってるよ馬鹿野郎。
『んなもん自分で渡せ。どうせお前轟ともろくに会話したことねぇんだろ。』
図星!!!
うぐぅっ……と黙り込む。そもそもほとんど声出してないけども。
『やっぱりな。良い機会だ、ちゃんと話してみろ。あいつも色々乗り越えて強くなってる。あいつだけじゃねぇが、お前のような実力派ヒーローに興味だってあるだろうから、話してやれ。』
「………………で、でも、」
『でももクソもねぇよ、さっさと行け。』
ブチィ!!とインターフォンを切られて1人佇んでしまう。
私は涙が零れそうなのを我慢して、通行許可証を首から提げた