強くなれ

ざわざわ。


「え…………あれって……え!?まじ!?」


「やば!!本物初めて見た!!」


「意外とちいせぇんだな…………でもあれだろ?この間のヴィラン、ワンパンで圧勝だろ?」


「すっげぇ…………やっぱ小柄だけど男の人なのかな?」


「いやでも…………女だったら怖いよなぁ。」


女だったら怖い。その言葉がより深く私の体に突き刺さる。


校内を地図片手にゆらゆら歩く。1-A……こっちか……。


歩いている最中、すれ違ったり遠目に見てくる生徒達が何やらざわざわと話していて、たまに聞こえる内容から私は静かにダメージを受ける。怖いって、……怖いって。


……あ、あった。1-A。


中からは騒がしい声が聞こえてきていて、元気だなぁ。と思わされる、この時点でおばさん臭い。


失礼します、と誰にも聞こえないような声量で呟き、引き戸を開く。


チラリ。顔を覗かせて教室を見ると、こちらを次々に見て固まる生徒達。


え…………?


「…………ほ、本物!?!?やべえええ!!!」


「俺初めて見たぜ!!ヒーロー名だ!!すげええ!!」


「え!?意外と小さくない!?なんか可愛いかもー!!」


わらわらと生徒達が迫ってくる、うわ、ちょ、や、やめて!!!


避けようにも人を吹っ飛ばす訳にもいかず、私はあっさり生徒達に囲まれた。





「え!?う、嘘だろ、ほ、本物!?!?」


つい声を荒らげてしまう、ま、まさか学校で本物に会えるなんて!!!


「凄いな、もしかして授業の一環で来てくれたのだろうか?」


「…………いや。」


隣にいる轟くんは否定の声を出したが、僕はそれどころじゃなく興奮する。


頭にはフードを被り、髪型も分からず、体は大きなマントのようなもので覆われて、体型やガタイは何一つ分からない。


顔には仮面を付けていて、もはや男性か女性かすらわからないようになっているヒーローヒーロー名!!


しかしながらその実態は超攻撃型、武闘派ヒーローで。基本的にはヴィランをワンパンで仕留める。その潔さと、かっこよさそして動く度に垣間見える引き締まった腕や脚からファンは非常に多いのだ!!


けれど、ファンサービスは少なめで、サインを求めれば書いてもらえるらしいし、グッズなども売り出されているが基本的に声を聞いたことがある人は少なく、かなりの人見知り、コミュ障なのでは。なんて噂されているんだ。


だけど、そんな内気な性格でもヴィランと戦い、苦手ながらもファンを大事にするその姿勢が更に人気を呼んで、今やエンデヴァー事務所内で、いや、国内でもサイドキック界ではトップの人気を誇っているのではないだろうか。


うわあ!!僕も間近で見たい!!


その気持ちから僕も皆に囲まれているヒーロー名の元へと向かうが、


皆に囲まれ、質問責めにあっているヒーロー名はひたすらにタジタジとしていて、困っている様子だった。


「み、皆!!1回落ち着こ!?」


慌てて僕はヒーロー名の前に立ち、皆に声をかける。


自分も大興奮してたくせに、なんて言葉は飲み込む。


「ヒーロー名は情報によると、かなり内気な性格でコミュニケーションが苦手だと思うんだ。………えっと、合ってますか?」


静かになった教室で、後ろにいる僕より小さなヒーロー名に驚きながらも聞くと、少しの間を置いてこくこく。と頷いた。


「そ、そうだったのか……すいません!!」


「ごめんなさい!!急に迫ったりとかして、」


そう皆が口々に謝ると、今度はふるふる。と首を横に振った。……な、なんか小動物みたいで可愛い。


「…………あり、がとう。」


「えっ?」


そんな声が聞こえて、マントの中からグローブを外した小さな手が出てくる。


……あ、握手?かな。僕は恐る恐る手を伸ばすと、ゆっくり握られた。


すると僕の手を握ったり、するすると撫でたりしているヒーロー名。な、なんだろう…………どうしたんだ。


「えっと…………?」





ただただ慌てふためくだけだった私を救ってくれた、心優しき生徒くん。


思わず感激し握手を求めてしまった、こ、怖いよね……急にマントの中から手がにゅっと出てくるとか怖いよね……!わかる……!!


急いで手を離そうと試みるが、ふと気になった彼の手。


酷く傷だらけで、皮が全体的に厚くなっている。


何度も傷つき、何度も治癒した結果だ。でなければこんな手にはならない。


するすると撫でつければ、古い皮と新しい皮が混在しているのがよくわかり、ヒーロー科と言うのもあるが、彼は非常によく頑張っているのだろう。それが伝わる立派な手だ。


「えっと…………?」


困惑する彼に、何か言葉を伝えたくなるが生憎私はコミュ障だ。上手く、それこそイレイザーのように言葉を贈ってあげられない。


それでも、と私は震える声帯に力を込めて、


「………………頑張れ。」


そう伝えると、彼は大きな瞳を更に大きくさせて、何かを堪えるように唇を噛み、そして大きな声ではい!!と返事した。

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