相棒

ヒーロー名が意識不明で病院に運び込まれてから数ヶ月後。


エンデヴァーヒーロー事務所から、ヒーロー名の独立が発表された。


それに対してメディア陣は意識も戻り、既に病院も退院したが未だにヒーロー活動へ復帰していなかったヒーロー名からのコメントを求め、


「………………コメントって…………。」


「抱負や、何故独立に至ったのかなど。まぁお前は記者会見などは向いてないし、ろくな事にならんから辞めとけ。」


「ヴッ……。」


俺は今、親父と共に机へと向かっているヒーロー名の隣に腰掛けていた。


「あと事務所の詳細。大方はこちらから発表したが、サイドキックは焦凍だけ、と言うのに多くの質問が寄せられている。それに対しては答えておいた方が良いだろうな。」


「…………何が、駄目なんですかね…………。」


「それはまぁ、実戦経験の少ない新卒1人だけでお前を支えきれるのか。と言う話だろう。」


親父の言うことは最もで、色々とやらかしがちなヒーロー名のサポートが務まるのかと言うのは世間の声として当然の事だった。


「…………焦凍くんなら、…………大丈夫。」


その言葉に驚きヒーロー名を見る。


表情は仮面に隠されていてわからないが、きっと微笑んでくれてるだろう。そんな気がした。


「うむ。その気持ちを文字にして公表しろ、あとの声は放っておけ。実績を積めばケチつける奴も減るだろう。」


「…………はい。」


「あぁ。」


「応援してる、何かあれば相談すると良い。」


エンデヴァーに力強く頷いたヒーロー名。


こうして数日後、コメントを発表するのと同日に


《ヒーロー名、本日付でエンデヴァーヒーロー事務所より独立。》


と言う記事が多くの新聞、ネットニュースの一面を飾ることとなった。





「……退院したら元気な顔見せに来いって言っただろ。」


「…………すいません。」


「遅せぇよ。」


「…………すいません。」


「アイツら、」


舞い散る桜を先輩と眺める。


「卒業しただろうが。」


「あ!!ヒーロー名!!!」


「久しぶりー!!!」


「元気そうだな!!良かった!」


「ご無事で何よりです!」


胸に花を飾った皆に手を振られ、振り返す。


「轟の入る事務所、ヒーロー名のとこだったんだな!!」


「てっきりエンデヴァーの事務所に入るかと……。」


「約束してたんだ、ヒーロー名と。」


「そうだったのか……!あの轟が事務所決まるの1番最後だったもんな、真っ先に決まるもんだと思ってたのに!」


皆が言うその言葉に申し訳なくなる。私が随分と寝てたから……大変お待たせしてしまった。


「ヒーロー活動はまだ開始しないんですか?」


いつの間にか隣にいた緑谷くんに尋ねられる、退院してから私はずっとヒーロー活動から離れて生活していたから。


「ううん。………………優秀なサイドキックが入ったら、…………活動し始めるよ。」


「……そうですか!!楽しみにしてます、ヒーロー名がまたワンパンで敵を倒していくの!」


「そんなの…………こっちこそ。デクの活躍、……楽しみにしてるよ。」


「おい!!ヒーロー名!!!」


「ぅおっ…………爆豪くん…………今日もげんきそ」


「うるせぇ!!ニヤニヤしてんじゃねぇよ!!!」


爆豪くんには私の仮面の下でも見えてるのかな??今日もどこ見て言ってんのか知らないが、キレられる。


「卒業おめでとう。」


「…………すぐだ、すぐにお前も超えて上に行く。」


いつだったか、このような言葉に返事をしたらプライドはねぇのか!!とキレられた。


だからこそ、今度は。そばに居た焦凍くんの腕を引っ張り、隣に連れて、


これ以上ない、待ちわびた相棒と共に


「…………………………負けないよ。」


いつものように私の仮面の下を見破って見せて。いつだって挑戦的なあなたに、宣戦布告の笑顔を浮かべているから。


「…………またな。」


「……うん、またね。」


そう言って皆の輪に戻って行った爆豪くん。きっと優秀な彼だ、すぐに名を挙げてチームアップなどで会うことになるだろう。


そんな日を楽しみに思っていると、ぐい。顔を掴まれ視界いっぱいの焦凍くん。


「しょっ…………!?」


「やっとだ。」


「え?」


「やっと、俺のだな。」


その言葉に顔が熱くなる。


「あなたの全部を、俺にくれ。」


「………………うん。」


優しく、そして愛おしそうに微笑んだ焦凍くん。


ゆっくりと顔を寄せてきた焦凍くんに、私は咄嗟にマントを翻す。


周りの皆からは見えない中、仮面を外して


「…………迎えに来たよ、焦凍くん。」


彼の唇に自分の唇を押し付けた。





「やっべぇよ…………あっちショートいたぞ…………。」


「ってことはヒーロー名もいるんじゃ、」


「呼んだ?」


目下で私の姿を見て震え上がっているヴィラン達。この距離この狭さ。私は適任では無い。


「ショート!!お願い!!」


「あぁ!!」


素早く的確に必要な箇所だけ凍らせ、身動きを止めたショート。


あとは警察への受け渡し、なんて考えていると無線から近くのプローヒーローからの連絡が入る。


『悪い、ヒーロー名!!そちらの区域に1人取り逃した!!確保を頼む!』


「了解。」


「あ、おい!!ヒーロー名!!」


「受け渡しお願い、場所は後で送るから。」


「ちょ……!!」


ごめんねショート。私のサイドキックは大変でしょ……。


それでも振り返ってる暇は無い、今も尚助けを求める人はいる。


聞いてた個性、容姿と合致したヴィランが、民間人へ攻撃しようとするのを見つけ、二人の間へ体を滑り込ませぶん殴る。


すると更に数名出てきて、個性を使われると面倒なので全て目に入った順に仕留める。


ショートがいないから身動きを止められないな……なんて思っていると聞こえた声。


「ヒーロー名!!」


「丁度良かった、こいつら凍らせて。」


「早いんだよ……!!」


そう言いつつ凍らせてくれたショート。警察への連絡は既にしておいてくれたようで、優秀なサイドキックに頭が上がらない。


するとまたも入った無線。いい加減にしろよ、なんて目をしているショートには申し訳ないが、止まれない。止まるのは苦手なんだ。


詳細を聞きながら言われた箇所へと向かう。


上空で飛ぶヴィランへと、拳を作り、背筋をしならせ、圧力をかけて拳を振り下ろす。


木々を薙ぎ倒しながら気絶したヴィランを見て、私は絶句した。


次の日の朝刊。1面を飾ったのは


《またもやり過ぎ!!ヒーロー名ヴィランを意識不明の重体へ!!サイドキック、ショートの呆れ顔!!》


fin.

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