呪い

「よぉ、元気そうだな。」


「せ…………先輩!?」


「お前その運動量大丈夫かよ、一応まだ怪我人だろ。」


病院内で失ってしまった筋肉を取り戻そうと、モリモリダンベルと遊んでいたところ現れたイレイザー。


「しかも聞いたとこによるとまだ目覚めて3日らしいじゃねぇか、お前大丈夫か。」


その大丈夫はどこについてだろうか、私の筋肉に対してだろうか、それとも頭に対してだろうか。


「…………大丈夫、です。…………でもなんで目が覚めたこと……。」


とりあえずどちらに対しても、返事をしておいて疑問をぶつければ


「轟から聞いた。クラスの奴らも心配してたからな、アイツらも会いたがってる。」


「そうだったんですか………………心配を、お掛けしました。」


「…………本当にな、まさか本当に死にかけて帰ってくるとは思わなかったよ。」


「ヴッ……。」


「…………でも、良くやった。俺達の想像を超えて向こうの方が上手だった、不利な状況下でよく帰ってきたな。」


しかもちゃんと主犯を捕らえて、な。そう言われて嬉しくて縮こまる。


「あと退院までどれくらいなんだ。」


「とりあえず経過観察で…………2週間ほど…………。」


「そうか、……退院したら学校に来い。元気な顔を見せてやってくれ。」


「…………はい。」


「そう言えば、仮面外しても平気になったんだな。」


「……………………!!!!!!」


じゃ。と閉じられた扉を見つめて固まる。そ、そうだ…………私今素顔を晒したまま先輩と会話…………。


あ、あれ、待って、そうなると轟家の皆とも…………冬美ちゃんと夏雄くんには見せたこと無かったはず……。


「…………うああぁ…………。」


頭を抱えて座り込む、やってしまった。あれだけ見せたくなかったのに。


…………とは言えエンジンとの戦闘は生中継されてしまった。その時見てた人達全員には知られてしまったという事だろうか。


震える手でスマホを立ち上げヒーロー名、とエゴサーチしてみる。


すると出てきたのは私の素顔やそれに対する言葉たち。


「……っ!!」


可愛い、そんな言葉が見えて瞬時にスマホを叩き割る。


…………終わりだ、ヒーロー名は。


「ヒーロー名?入るぞ?」


ノックと共に聞こえた声。焦凍くんだ、あぁ、また素顔を見られる。見ないで、…………弱い私を見ないで。


「…………どうしたんだ……!?」


入ってきた焦凍くんに見られたくなくて、顔を膝に押し付けるようにして丸まった。


「ヒーロー名…………?」


「…………みな、いで。」


「え?」


「見ないで。」


顔も体格も何も隠せていない状況に、段々と怖くなってきて全てから逃げたくなって、自分を抱きしめるようにして少しでも彼の目から逃げたくなった。


「…………わかった、見ない。」


そう聞こえると、ゆっくりと温もりに包まれた。


「見ない、けど放ってはおけない。」


そう言って優しく頭を撫でられて、理由なんてわからなかったけど涙が零れた。





「大丈夫か?」


「……うん、ごめん。」


病室のベッドに座り、焦凍くんと向き合う。


あれからわんわんと泣き出してしまった私を、焦凍くんは優しく抱き締め続けて、こうして落ち着くまで待ってくれた。


「…………素顔を多くの人に見られて、」


「あぁ。」


「…………もう、頼れるヒーロー名は終わったんだなって。」


「…………なんで?」


「…………昔から、ずっと言われてた。わかってる、……可愛くても強いひとは…………沢山いる。でも、」


唇を噛み締める。


「……可愛いは、…………呪いだから。」


私を弱くさせる、呪いだから。


「……それは、誰に言われても?」


「…………?」


「俺、ヒーロー名に言った。美人とか可愛いとか。」


あれも駄目だったのか?そう聞かれて、いや違う、あの時はただ嬉しかった。


素敵な君に褒められたのが、嬉しかった。


「…………焦凍くんや、冷さんは良かった。」


「なら、それで良いだろ。」


「え?」


「俺やお母さんの言葉は本当に、褒め言葉で贈ってる。他の人に言われる言葉が気になっても、俺達の言葉を信じてくれ。…………ヒーロー名は俺の中では今も変わらず強くて優しい頼れるヒーローだ。」


そう言って笑った焦凍くん。


私の素顔を知った上で、そう言ってくれた。


「…………ありがとう。」


「あぁ。…………それにヒーロー名が思っているより、世の中だってヒーロー名の敵じゃない。」


そう言って見せてきたのはスマホの画面。つい先程の事が過ぎり、目を逸らそうとするが優しく握られた私の手。


「大丈夫。皆ヒーロー名の事ちゃんと見てくれてるから。」


…………恐る恐る、スマホの画面を覗き込む。すると


《 ヒーロー名可愛すぎ!!強くて優しくて可愛いなんて最強じゃん!!もしヒーロー名に助けて貰えたらラッキーだね!》


《 こんな可愛い子が、多くのヴィランを倒してるなんて……凄すぎる!!元々ヒーロー名好きだったけど、更に好きになった!!》


《 正直男かと思ってた…………けどこんな美人で、顔隠してても人気出るなんて、まじの実力者!!ヒーローの鑑だな!!》


…………誰も、私を弱者として扱ってない。


「ヒーロー名の培ってきた信頼や実績が、容姿に上乗せされて更に人気が出てるらしい。ほら、この間のヒーロー名の意識が戻ったってニュースの後も皆喜んでたよ。」


「…………そっか。」


「…………だから、」


ぎゅ。握られた手に力がかかる。


「退院したら、俺と一緒にヒーロー活動しよう。」


そう言って差し出されたのは名刺。


「……………………え!?」


そこには、ヒーロー名ヒーロー事務所所属 ショート。そう書かれていて。


「な、な、なに、それ……!?」


「あははは!!慌てすぎだろ!……親父がもう色々やってくれてる、俺もうすぐ卒業するけど、入る事務所が無いって宙ぶらりんだったから。親父が先に事務所作って俺入れたんだ。」


「え…………エンデヴァー…………!!」


ありがとうございます、エンデヴァー……!!そうか、もうすぐ焦凍くん卒業だから……そのままにしてたら他の事務所に取られてしまうとこだった……!!


…………あれ、って言うか


「焦凍くん……?」


「うん?」


「私…………エンデヴァーに焦凍くんをくださいって言ってない…………。」


「…………え!?俺をくださいって、……ど、どういう……。」


どういうって、自分の事務所に入れようとしていたであろうエンデヴァーから奪ったような形で。ちゃんと息子さんを私にくだ……さい…………って………………。


「ちちちち、ちが、ち、ちがう!!!」


「…………違うのか?」


「ヴッ!!!」


美形をふんだんに活用して、しょんぼり。とでも言いたげな顔を見せる焦凍くんに語彙が失われる。美形ズルすぎる……。


「……ふふ、それはまたいつかな。」


「……………………ヴッ。」


「親父には自分から言った。それでその話を経て親父が事務所の設立とか色々やってくれた。」


「…………反対、……されなかった……?」


「あぁ。」


「………………え!?さ、されなかったの!?」


「あぁ、されなかった。……信頼されてんだろ。」


流石だな、そう言って笑った焦凍くんにまたも泣きそうになる、歳かな。


「…………後日またエンデヴァーと冷さんには頭下げに行くよ。」


「別に良いだろそんなの。」


「だ、……だめ!!」


「そうか?」


大事な大事な末弟さんだ、大切にします、そう伝えないと私が煮え切らない。


「そう言うなら。…………元気になったら一緒にうちへ行こう。」


「…………うん。」


「…………楽しみだな、一緒に活動出来るの。」


「……………………うん。」


ニヤける頬もそのままに、嬉しそうに微笑む彼を見つめた。

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