初めまして
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A組から出てきたのは、赤と白のなんとも目立つ頭。
轟くん、だよな。…………あれ?
私は手に持っていた資料を確認する、……本日放課後、図書室集合。……だよね?
彼も同じ図書委員だった気がするんだけど、もしかしてもう忘れてしまっているのだろうか。
呼び止めようか、いや、でも、普通科の人間なんて顔すら覚えてないかもしれない。いやむしろ覚えてたら凄いぐらいだ。
それに、彼にも理由があって委員会に出ないのかもしれない。もしかしたら代理の人が出てくるのかもしれない。
うんうん、そうだ。きっとそうだ。
私は下駄箱へと向かっていく彼に背を向け、図書室へと向かった。
◇
やっっぱり忘れてたか…………!!
後悔の念に押され、項垂れる。やっぱり勇気を出して呼び止めるべきだった。ごめんなさい轟くん。
しかもB組の人までいない。そのせいで図書委員担当の先生はヒーロー科についてガミガミと怒っている。
「まぁ帰っちゃったものは仕方ないな……C組の担当は誰だ?」
「は、はい!」
呼ばれて先生の元へ行く。
「悪いがこれ、A組とB組の連中に渡しといてくれないか。」
「えぇ!?」
「他のクラスの奴らに比べたら近いだろ?じゃあ頼んだからな!」
そう言い残して先生も、他の委員の子達も図書室から出ていってしまった。……な、なんという事だ。
結局話しかけることになるんじゃないか、だったら昨日話しかけておけば……!!……なんて今更後悔したってもう遅い。
先生から貰ったプリントをファイルにしまって、私はとぼとぼ家路に着いた。
◇
先程B組の子には無事渡せた。忘れてた!!ごめんなさい!!と謝られ、い、いえいえ!!と逃げるようにして廊下へ飛び出した。
問題は次だ、A組。
何度もヴィランに襲われつつも、誰一人欠けることなく乗り越えてきた猛者達の集うクラス。
あぁ、こ、怖い。なんか怖い。それに轟くんに話しかけるのも緊張する。
彼は相当な実力者で、体育祭で見た時は同じ人間なのか?と疑いたくなった、疑った。
それに彼はかなりの美形で、全く接点のないC組でも彼の噂は途絶えない。彼女いるのかな?なんて大体どこのクラスからでも聞こえる。
ああああそう言えばこのクラスには、あの体育祭1位の人がいるんだった!!かなりやばそうな人!!
この扉を開けて、すぐにあの人がいた日にゃ私の人生おしまいだ。
仮にもヒーロー志望に向かって言う台詞では無いが、ほんとに、マジで、人生終わらされる気がする。
ああぁ、どうしよう、どうしよう。こんな事してる間にお昼休みは進んでく。放課後になってしまえばまた帰ってしまう。
ど、どうしよう。ここは意を決して、扉を、開けて、……1位の人だったらすぐ逃げよう。そ、そうしよう。
よよ、よし、開ける、開けるぞ。
すー、はー。深呼吸して扉に手をかけたその瞬間。
内側から勢い良く扉は開かれ、私の手首はなんかちょっとおかしな方向に曲がってしまった。
「いっ……!!?」
「あ、悪い。……だ、大丈夫か?」
突然襲った痛みに若干涙目になる、い、い、いったぁ……。
じんじん痛む手首を抑えながら顔を上げると、そこにいたのは赤と白の頭。
「…………あ、あああ!!!」
「ぅお。」
「と、轟くん!!」
「そ、そうだけど……手首大丈夫か?」
良かった!!あの1位の人じゃなかった!!しかも話したかった人だった!!
「こ、これ!!」
「……これ、図書委員の…………あ。」
「き、昨日委員会忘れちゃいましたよね、そのプリント預かってきたので、わ、渡しに来ました。」
なんとか言葉を躓きながらも紡いで、彼にここに来た意図を伝えた。
「そうだったのか…………悪い、ありがとう。」
「い、いえ!!」
それじゃあ私はこれで。と踵を返す。いや、ほんと、噂には聞いてたけどかっこいい。かっこよすぎる。
声も凛々しくてかっこよくて、ちょっと、わ、私にはハードル高すぎる。楽しくお話出来るほどハートは強くないです。
「ちょっと待て。」
「いっ!!」
しかし意気揚々と帰ろうとした私を彼は引き止め、何故か掴まれたのは先程痛めた手首で、つい声を上げてしまう。
「わ、悪い。……せっかく届けに来てくれたのに、手首痛めさせて悪かった。」
そう言うと段々と冷えていく私の手首。
「俺の個性、こっち側だと冷やしてやれるから……もう少し痛み引くまで待ってくれねぇか。」
「う、あ、…………は、はい。」
彼が納得するまで、私は大きな轟くんの手に手首を優しく握られ冷やされた。
代わりに私の心臓や顔はあまりの熱さに爆発しそうになってたけれど、そんなのきっと轟くんは知らないだろう。
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