※あくまでも、最終話は前話です。この話は番外編もどきと考えてください。
「だから、……本当にごめんね。好きになってくれて、本当にありがとう。」
「……はい、わかってましたよ、どこかで。……でも名前さん、あの、これは、」
「…?食べないんすか、及川さん。」
「あ、ちょっと、もう。口の端ついてるよ!!」
「え?どこ。」
「……………これは、無いんじゃないですかぁ…?」
「「?」」
「……はぁ。」
仮とはいえ結婚の話をしていた及川くんに、私は嫁に行くため及川くんとは結婚出来ない。と謝罪しに来た私と飛雄。
しかしそれに対して、特に怒ってないことに安堵しながらも、飛雄に対して青筋が浮かんでいるのは何故?
「わざわざ、飛雄を、連れてくる必要って、ありましたか??」
一言ずつ区切って、青筋を浮かべたまま笑顔を作る及川くん。
「え?まぁ…相手のことも紹介するべきかなぁと?」
「いや、俺めっちゃ知ってますよね飛雄のこと。」
「そうなんすか?」
「そうなんすかって何なのお前、中学の先輩だよね?俺。」
「まぁまぁ怒らないでよ及川くん!」
「いや流石に怒りますよ?俺がこの生意気な後輩が嫌いって分かってて連れてきました?」
「いやいや、飛雄の事と言うか私の相手を、という意味で連れてきた!!」
「……はぁ。」
「疲れてんすか及川さん。」
「うるさい、ちょっと黙ってて。」
「?」
「疲れてるの?及川くん。」
「…疲れてないですよ、……名前さん、今からでも俺にしときませんか?」
「は!?駄目っすよ!!」
「お前には聞いてない。…こいつ、駄目なところ多いし、たぶん後から困る事も沢山ありますよ?いいんですか?」
「……うん、飛雄が良いの。そんな所含めて好きだし、バレー以外が駄目な飛雄と今まで楽しく生きてきたし。」
「……そうですか。」
「うん。だから、本当にごめん。及川くんも良い人と出逢えると良いね。」
「はい。…でも。名前さん以上の人には出逢えないでしょうね。」
「…え?」
「それくらい、忘れられないくらい良い女です。名前さんは。」
ふわり。優しく微笑んだ及川くん。
「……あの、…口説かないでもらっていいっすか。」
それに対してむむ。と唇を突き出した飛雄。
「口説いてないよ。最後に伝えたかっただけ。……それじゃあ俺は行きますね。………お幸せに。」
「……ありがとう。……………及川くん!」
席を立ち、遠ざかる及川くんに声をかける。ゆっくりと振り返り、そして首を傾げる彼。
ずるいかな、とか。今言うべきでは無いかな、とか思ったけれど、今を逃したらもう二度と会えない気さえして。
「……大好きよ!」
親愛なる、友へ。
これ以上無い笑顔と言葉を贈りたかった。
「………はい、俺もです。」
にっ、と歯を見せて目元をくしゃくしゃにして笑った及川くん。
その屈託の無い笑顔は、中学生の頃。初めて会った時の事を思い出させて、10年近くに及んだ彼との繋がりが今消えるのだと実感し、寂しさが込み上げる。
私は及川くんの背中が見えなくなるまで、及川くんとの思い出に浸ってしまった。
「……おい。」
「うん?」
大好きよ、なんて他の男に言うな。とか言われるだろうか。
「………愛してる。」
思わず目を見開いた。え?
「だから、俺と一緒に生きていくんだろ。」
「う、うん。」
「じゃあ良い。今だけは、及川さんの事考えてても。」
そう言って、優しく笑った飛雄。
大きくなったなぁ大人になったなぁ。と思ってしまうのはもはや癖であり、愛情の現れだ。許して欲しい。
「ありがとう、…これからはずっと飛雄の事だけ見て生きていくから。」
「おう、当たり前だろ。」
顔を突き合わせて笑みを浮かべる。
かっこよくて、穏やかな、そして泥臭い人間の彼。
行くことの出来なかったアルゼンチンに思いを馳せ、私達は家路に着いた。