++不純異性行為/1年生



*バルガスキャンプ


「ナマエ〜遊び来た〜」

 薄いテント地は光が透ける。ナマエがいることはお見通しだ。どうぞ、という招き入れる声。ナマエ以外にも衣擦れの音や身じろぎをする人の気配のようなものがするが、グリムだろうと高を括っていた。

「まあ狭いけど」
「ちょっとエースクン、夜中に女の子のテントに一人で来るなんてしていいと思ってるの?」
「てかエペルお前はなんなんだよ」
「残念だったなエース、俺たちが居て」
「本当に残念だよ……」

 エースは見るからに肩を落としながら空きのあるスペースに腰を下ろす。
 せいぜい二人用のテントの中に、時計回りでグリム、ナマエ、エース、エペル、デュース、ジャックの五人と一匹、狭くないわけが無い。中央には封が開けられたお菓子が置かれている。

「皆考えることは一緒ってワケ?」
「オレ様お腹ペコペコなんだゾ……」
「部活の先輩居るのに一人だけ菓子開けるわけにもいかねえだろ」
「僕もいくつか持ってきたんだが、部活の皆に配るほどは無いし」
「ボクはせっかくヴィルサンもいないしってたくさん持ってきたんだけど、マジフト部のところに置いてきたら全部食べられちゃいそうだったから」
「グリムとナマエに食べられるリスクもあるけどそれでもこっちに持ってきた、と」

 エースも鞄の中からポテトチップスやコーラを取り出した。
 まさかキャンプがここまで過酷なものだと思っていなかったのである。エースは、はあ〜と深々とため息を吐いた。足を伸ばしたい気持ちも山々だがそれも出来ないのであぐらで我慢する。

「あんなんじゃ飯足んねえわ。これ三日もすんのかよ」
「僕も同意見だ」
「あれだけ動き回って食べられるのちょっとだけだし……」
「マジフト部はいいだろ、ラギー先輩いるし」
「確かに野草や山菜で量は増やせるけど……ご飯とかパンがほしいなあ……ナマエサンはちゃんと食べれてる?」
「バルガス先生にも手伝ってもらってるから。それに皆より動いてないし私は大丈夫だよ」
「ナマエ顔色悪くないか? 学園長も女来させるなんてどうかしてんだろ、野宿だし周り男だらけだし。大丈夫なのか?」
「学園長が防衛魔法かけてくれたからたぶん大丈夫。テントも私が許した人じゃないと入れないし、あと元々防御用の魔法具もらってるし」

 テントはどうやら、ナマエが中に入ることを許した相手で無ければ入れない仕組みになっているようだった。
 いくらマジカルペンを取り上げられたとしても男と女、力の差は歴然だろう。ましてや学園に女一人なのだからナマエが守られるべく何らかの措置が講じられているとは思ってはいたが、彼女に魔法具が与えられていたのは初耳だった。

「エースもしかして初耳だった?」
「初耳」
「仕組みはよく分かんないけど、私が主観的に嫌なことをされると雷が落ちて学園長にも知らされる仕組み」
「ナマエサンそれ使ったことある?」
「あるよ」
「俺気をつけるわ」
「僕も」
「同意だな」
「私の主観的に嫌なことってストライクゾーン狭いから大丈夫だよ」
「何をされたんだ?」
「髪の毛捕まれて切られた」
「そいつ誰」
「エース、目据わってて怖いよ」

 作りたい魔法薬の素材に乙女の髪の毛が必要だったんだって、とナマエが補足する。挨拶して何本か髪の毛ちょうだいでいいじゃん、と間髪入れずにエースが言う。髪の毛を切られたことは驚いたものの、切られた後は同情の上クルーウェルに髪の毛を整えて貰えたのでナマエとしては散髪代が浮いたぐらいにしか思っていないのだった。

「乙女の髪の毛が必要な魔法薬っていくつかあるけど、有名なのってユニコーンを留まらせる魔法薬かな。あとは妖精の鱗粉を見やすくする薬とか?」
「何のために髪の毛を使うのか全く分からないんだが。魔法薬に使うユニコーンのたてがみも妖精の鱗粉も俺たち学生が使うような魔法薬の材料じゃねえだろ」
「うちの寮長はたまに使ってるよ」
「ポムフィオーレ寮が特殊なだけだ」
「案外本当にナマエさんに気があって、気を引かせるためにそんな行動したのかもね」
「は? 許さん」
「だからエース、目据わってるって」

 ザッザッ、と外から足音が突然聞こえて声の大きさを一旦落とす。また中央のランプについても手で光を覆う。隣にはバルガスのテントがある。まさか彼がこうやって生徒同士が集まっていることに難癖をつけるはずがないとは思うが、テントの中を開けられたらどうなるかは分からない。二人用のテントに五人と一匹、それに中央にはスナック菓子の袋である。取り上げられるのは相当な痛手である。

「──人間居るか? 菓子を持ってきたんだが」
「セベクくんも隅に置けないわね〜。女の子のテントに夜中に一人来るなんて!」
「いやエース、お前も人のこと言えないからな」
「どうぞ、すっごく狭いけど」
「ナマエ以外の人影が見えた時点で予想はしていたが……」
「エースそっちもっと詰めて」
「え〜オレナマエの隣が良い〜」

 エースが渋ったため、エースとエペルの間に一人分の空間をなんとかこさえてセベクを入れる形になる。

「これを見るに、皆考えることは同じ、と」
「セベク随分持ってきたね。どうしたの?」
「リリア様が、泊まりならば菓子をたくさん持って行けと。だが部活で食べられる雰囲気では無かった」
「まあうちの寮長居るしね〜。夜中にお菓子? 首をはねてしまうよ! って言いそう」
「モノマネ全然似でね」
「エペルやってみろよ」
「まあ〜! こんな夜中に油分糖分だらけの体の毒にしかならないお菓子を食べようだなんて随分と肝が据わってるんじゃない? 毎日の努力の積み重ねが美しい体を作るの。分かるわよね、アンタたちが寮の部屋に隠してるお菓子、アタシが知らないとでも思ってるのかしら? ここでアイアンクロー」
「合宿の記憶蘇ってきたわ……」
「隠しているお菓子まで把握してるのか」
「エペル、今日はたくさん食べていきなね」
「うん」










20210425


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