++315文字ショートショート/若里春名、姫野かのん


夏、謳歌/若里春名

 夏がやってきたと思った。
 太陽の突き刺さるような熱線が肌を刺す。アスファルトの照り返しも痛いぐらいだ。関係者席からでも分かる鼓膜がビリビリと震えるぐらいの歓声、一体となった会場の空気が全身を揺さぶった。自分の体が自分のものではないもののように高ぶっていた。
「──つめたっ!」
「プロデューサーも水分補給しろよ」
 首筋にキンキンに冷えたペットボトルがあてがわれて飛び上がるくらいに驚いた。出番のあとに裏を潜り抜けてきたのだろう。
 顔真っ赤じゃん、と彼は少し屈んで私の顔を覗く。彼も顔が赤い。ぴたりと前髪が張り付いていた。むき出しになった腕やお腹からは、つ、と汗が流れ落ちる。私の視線に気がついた彼がにやり、笑った。
「プロデューサーのえっち」






もしかして魔法使い?/姫野かのん


 もし魔法が使えたらね、助手席に座ったかのんくんは上機嫌に言葉を紡いだ。
 とびばこ4段とべるようになる!、そう高々と宣言した彼が可愛らしくて、にんまり口角が上がった。それを見た彼がぷくりと頬を膨らませる。こほんと咳払いをして言葉を続けるが、途中であれ?、と小首を傾げた。
「やっぱりね、いちばんはかわいいお洋服をたーっくさん着ることなの。でもおしごとのお洋服がぜんぶかわいいから、すぐかのんの夢がかなっちゃう。どうして、プロデューサーさんはかのんがだいすきなお洋服がわかるの?」
 どうしてだと思う?、意地悪に尋ねるとかのんくんは少し悩んだ。そして宝石みたいな目をきらきらとさせて、私を見上げる。
「あのねあのね、プロデューサーさんって──」



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