++戦略/花園百々人



「冬は僕が触れてもぴぃちゃんが離れていかないから大好き」
「それプロデューサーに直接言ってみてくださいよ百々人先輩」
「気づかれたら離れていきそうだから言えない」
「正夢言ったら正夢じゃなくなる理論と通ずるものがありますね……」

 事務所にはどうぞご自由に、のお茶やココアやカフェラテやらプロテインが置いてある。学生はもっぱら仕事の待ち時間に事務所のミーティングスペースやソファで勉強をしているが、今日の百々人と秀もそうだった。事務所のソファで学校から課せられた宿題をしている。事務所に来れば、分からない問題があれば同級生で知恵を出し合えるし、頭脳派揃いの315プロダクションだ。大人に聞けばホワイトボードまで使って白熱した講義をしてくれる。図書館の学習スペースのように場所が無くて空しく帰宅することもなく、いつでも適温に保たれていて、お菓子が食べれて、と、こんな勉強に最適なスポットも無いだろう。
 百々人が事務所に来る理由はプロデューサーが居るからということが一番だが、それを抜きにしても居心地が良いのは確かだった。
 秀はシャーペンをくるくると回しながら百々人との話を続ける。どうやら問題に行き詰まったらしい。

「百々人先輩ってふわふわしてるように見えて思いのほか策略家というか」
「それ僕褒められてる?」
「褒め5割、恐怖5割ですかね……」
「え〜」

 百々人はお茶を入れたマグカップを両手で包み込んだ。じんわりとした温かさが手に馴染んでいく。百々人は冷え性では無かったが、やはり身体を動かさないとペンを握る指先が少しずつ冷えていくのは感じていた。

「でも僕は、ぴぃちゃんのためだったら何でもできるし、したいって思うよ」
「……プロデューサーが人を殺して埋めるのを手伝ってほしいって言っても?」
「うん」
「即答だ……」

 今日は随分と冷える。昨日まで上着を着なくても十分だったのに、いきなり風が冷たくなり、上着を羽織っても肌寒いくらいだ。焼き芋の移動販売のかけ声に心が揺らいでしまうぐらいには。

「ねえ、百々人先輩」
「だめだよ」
「え、なんか意外」
「もうちょっとでぴぃちゃん帰ってくるから」
「それって何か関係が……」

 遠くで扉を開く音が聞こえた。
 ホワイトボードのスケジュールを見れば、プロデューサーの帰社は14時となっている。そろそろプロデューサーが戻ってくる頃かと秀が思っていると、百々人がまだマグカップを手で包み込んでいた。

「先輩、寒いんですか?」
「寒くないよ」
「さっきからずっと触ってますけど」
「うん」

 かたんかたん、と階段を上る一人分の足音が聞こえてきて、それが大きくなっていく。

「お疲れさまです〜」
「ぴぃちゃん、おかえり」
「お疲れ様」

 外寒すぎません?、と鼻頭を赤くさせたプロデューサーが事務所のドアを開けた。どうやらジャケット一枚で出掛けたらしい。

「ぴぃちゃん鼻真っ赤だよ」
「もうコート必要ですね、ほんと寒かった……」

 百々人が立ち上がり、プロデューサーが鞄も下ろさないうちに手を握った。指先もすっかり冷え切っている。

「あ、あったかい〜」
「僕、ずっと部屋の中にいたから……。ぴぃちゃんのカイロになれたらいいな」
「手も本当に冷たくて感覚が無かったので助かります」

 プロデューサーの細い手を百々人が包み込んだ。冷えてるの血行が悪いのもあるんじゃないかなあ、と指の間に指を入れて、にぎにぎと揉む。
 それに秀はピンと来てしまった。プロデューサーの帰社時間を見越してマグカップにお茶を注いで手を暖めていた。そして見計らったようにプロデューサーの前に現れ、冷えきった手に自分の手を差し出す。

「暖まってきました、ありがとうございます。そういえば、焼き芋屋さんで焼き芋買って来たんです。何本か買って来たので分けましょうか」
「ちょうどアマミネくんとも食べたいねって話してたんだ。嬉しいな」

 僕包丁持ってくるね、と給湯室へと向かう。私は手洗いうがいをしてきます、とプロデューサーが続く。その百々人の背中を秀が見ていると、百々人がぱっと振り向いて、口に人さし指を一本添えた。本当に恐ろしい人である。






20231111


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