++僕も!/花園百々人、姫野かのん




 ぴぃちゃんがソファで寝ている。くの字に折り曲げた足の間の前の空いているスペースに姫野くんが座っている。

「ももひとくん、しぃーだよ、プロデューサーさん疲れてねむっちゃったの」
「ぴぃちゃんがこんなところで寝てるの珍しいね」
「もうだめだ〜って、事務所のほかの人も起こさないでねって。だからかのんプロデューサーさんが起こされないように見てるんだ」
「そっかあ」

 事務所のホワイトボードを見る。アイドルたちの予定だけではなく、ぴぃちゃんの予定も入っていて、そこには今日の朝3時から撮影同行の文字があった。今の時刻は17時、たぶんずっと働きづめだったのだろう。
 事務所のソファは女性でも足を伸ばして寝るのならば手狭だった。現にぴぃちゃんは肘掛けに頭は乗せずに平たいところに頭を、そして足は膝から先を折り曲げて床に着けている。仰向けではなく横向きに近い形で眠っていた。ヒメノくんはそんなぴぃちゃんの足の隣に両膝をくっつけてお行儀よく座っている。

「ももひとくん、じっと見てどうしたの?」
「どこなら入っていいかなって」

 足とソファのくぼみのところに押し入って、背中からぴぃちゃんを抱きしめるみたいな格好で横になったらいいかもしれないけど確実にぴぃちゃんが起きてしまう。ここはやっぱりソファの前に座って頭だけぴぃちゃんの腕の付近に乗せてしまうのがいいかもしれない。密着できる場所は限られてしまうけど背に腹は変えられない。

「……聞こえてます。入るところないです」
「えー」

 ぴぃちゃんが寝起きの少し掠れた低い声で言った。ウウー、と唸っているあたりまだ眠いし寝ぼけているのだろう。

「姫野さんもこんな狭いところに無理やり入ってくるし、花園さんも更に入ってこようとするし、二人とも猫ですか……猫ちゃんって段ボールの中にぎゅうぎゅうになって入るの大好きですよね」
「テトリスみたいにうまく体勢を変えたらどうにか入れない?」
「ギチギチになっても入る気だ」

 ぴぃちゃんが起きあがって、左に少し詰める。花園さん私の右隣に座ってくださいと言う。それに応じて隣に座ると、ぴぃちゃんが僕の背中からお腹に腕を回すと、そのまま横になる。ソファの背中、ぴいちゃん、僕、と二人横になることを想定していないソファに横になっているのでかなり手狭だ。
 僕の背中にぴぃちゃんの胸や顔がくっついている。そして僕がソファから落ちないようにぎゅっと抱きしめてくれていて、すごく良いかもしれないと思っちゃった。普段ぴぃちゃんはアイドルたちとの距離をかなり配慮しているから、僕がぎゅっとして、と言っても軽くハグする程度で終わっちゃう。僕としてはもっとぎゅーって呼吸が苦しくなるぐらい抱き締めてほしいのにすぐ終わってしまうから物足りないと感じていた。
 それが今苦しいぐらい抱き締められていて、胸が苦しくて暖かくて幸せでずっとこの時間が続けばいいのにと思った。ぴぃちゃんが呼吸をする度に、背中にあたった胸が上下する。

「──ハイチュウ食べました?」
「うん、近くのコンビニで買ったいちご味の……」
「なんか花園さんっていっつも甘酸っぱいにおいするから近くいるとお腹へる……」

 ぴぃちゃんは前に、香水をつけると鼻むずむずするからあんまり着けないと言っていたことを思い出した。着けていなくてもぴぃちゃんはいい匂いがするし、着けているときはいつものぴぃちゃんじゃないみたいでドキドキする。

「ひとつしか食べてないからぴぃちゃんにもあげる」
「嬉しいありがとうございま……、いやそうじゃなくて」

 ぴぃちゃんが立ち上がろうとした気配を感じたので、僕のお腹に回された手を掴んだ。

「離していただけません?」
「やだ」
「やだじゃなくて」
「あと8時間くらいこうしててほしいな」
「終電終わります」
「それじゃあ朝まで一緒に居れるね」
「かのんも!」

 どん、という衝撃が背中に来る。たぶん姫野くんがぴぃちゃんの上に乗っかったのだろう。ぴぃちゃんが重い〜……と潰れたカエルのような声を出した。

「かのん重くなった? あめひこさんみたいにおっきくなれるかな?」
「どうかな〜、……花園さん本当に腕痺れてきてるので」
「僕ダイエットするね」
「これ以上痩せなくていいから、とりあえず腕離してくださいよ」

 ぴぃちゃんは自分から抜け出すことは諦めたようで、気の抜けたため息を吐きながら、やばあいこれ他の人来たら疑いの目で見られそう、とこぼした。





20231127


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