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「君の仕事中毒ぶりはどうかと思う」
「職場の方にこれから少し良いかだなんて聞かれたら、仕事のことだと思うじゃないですか……!」
 きらきらとしたイルミネーションが頭上に煌めいている。
 つい先ほど、天道さんから時間があるかと呼び出されたのだ。何か深刻な相談事だろうかと考えを巡らせていたが、このイルミネーションを見せたかっただけだと聞いて、ほっと胸を撫でおろした。
「あちらの公園でクリスマスマーケットしてるんでしたっけ」
「腹が空いているのか」
「空きましたよ、ご飯食べてないですし」
 少し先の前方を歩く柏木さんが、おーいと手を振った。上背があるので周りが人でごった返していてもよく分かる。柏木さんは左を指さしパクパクと口を動かしている。その横で天道さんが笑いながら、柏木さんに連れられるまま道を反れた。
「行っちゃった」
「柏木が居る時点で想像はついていたが」
「この時間だしお腹空きますよね」
「柏木はここに来る前におにぎりを2つもたいらげたのに」
「え〜、結構本格的ですよ、ホットチョコレートもあるし、ホットワインとぐるぐるのソーセージもある……」
 スマートフォンでクリスマスマーケットを調べると、店舗一覧の記載があるウェブページがヒットする。この夜が深まったような時間帯に見るのはなんとも背徳的なものが並んでいて目を背けたいところだが、腹は素直にぐぅ、と音を鳴らした。
「チーズかかってるポテト美味しそう」
「君、脂質は控えるとかなんとか先日言っていなかったか」
「私よりも私の発言覚えていらっしゃいますよね」
 流石、私の主治医を名乗っているだけあるな、と思いながら画面をスクロールさせながら歩いていると、桜庭さんが私の二の腕を掴んだ。
「おっ、と」
「この人混みで君を見失ったら見つけられる自信が無い」
「スマホあるじゃないですか」
「この人だかりだと電波が悪いだろう。君は小さいから待ち合わせ場所に人が多くいると毎回探すのに苦労する」
「そんな大げさな」
「夏にビアガーデンに行ったときにどれだけ苦労したか……、君はアルコールを含んで浮き足立っていて、料理を求めてふらふらして全然戻ってこないし、連絡を入れても既読がつかないし、挙げ句の果て会場の隅の壁に寄りかかってビールを飲んで……」
「その節はすみませんでした」
 くどくどと文句を言う桜庭さんに思わず縮こまる。彼が言っていることはごもっともなので言い返すことが出来ない。
 まるで目を離すと車道に飛び出そうとする子供の手を繋ぐ親のように、結構な力で掴まれている。私を見失った状態で天道さんたちと桜庭さんが合流した場合、彼の気持ちが浮かばれないことは確かだ。祭りの喧噪に浮かれて迷子の成人女性が一人というのも格好がつかない話ではある。
 何となく申し訳なくなりつつ、ちらりと桜庭さんの顔を見た。レンズにイルミネーションの光が反射している。口から出る息が白い。冬の冷たさのせいだろう。顔色や唇の血の気が薄く、いつもに増して白磁のような肌だと思った。
 私の視線に気が付いた桜庭さんは、わずかに目配せをして口角を上げる。
「見惚れる先が違うんじゃないか?」



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