++きみがほしい/ハルト


*吸血鬼面会の


 ごめんね、そう囁いた彼の目は暗がりでも爛々と輝いているように見える。目が離せない。そのまま一体どうしたの、そう尋ねようとしたけれど口が回らず、声が出なかった。
 ぎしり、とベッドが軋む音がどこか遠くで聞こえる。彼は横たわる私に覆い被さるような形でどこか楽しげに眺めている。いつもの彼じゃない、私は身の危険を感じてベッドから下りようとするけれど、身体が言うことを聞かなかった。

「怖がらないで……?」

 カーテンがぶわりと風で翻ると僅かながら月明かりが漏れる。獰猛な獣のような、それでいて妖艶に細められた瞳。薄い唇から飛び出た二対の牙を長い舌がちろりと舐める。
 私の首もとに手を置き、もう片方の手でボタンをぷちりぷちりと外していく。首の大部分が晒される形になると、彼はごくりと喉を鳴らした。荒く服を肩ほどまでずり落とす。
 状況が理解できない。今日私は束の間の休日を彼と家で過ごしていて、夕食の後少し高めのワインを開けた。お酒にそこまで強くない私は、途中で酔って眠くなってしまって、彼が寝室まで運んでくれたのを夢うつつで覚えているのだけど。

「もう少し、眠っているかと思ったのだけど」
 
 でも起きてしまったのなら仕様が無いね、彼は緩慢な動作で唇を私の首に寄せていく。そこで私を縛っていた物がぷつりと切れたかのように自由になる。

「ハルトっ、くん……っ!」

 彼の頭を押しのけようとするけれどびくともしない。彼はそんな私の些細な抵抗をふふっ、と笑いながら首に息を吹きかける。はあ、と生ぬるい吐息。そのままかぷりと私の首に甘噛みをすると、ねとりとした舌がその一点を舐る感覚。それに背筋にびくびくと衝撃が走るようだった。唇を噛みしめれば彼の長い指が隙間から入り、歯列を舌を蹂躙していく。彼の指を噛むことが出来ず、引きつったような甘い声が喉からせせりでる。耳のすぐ近くでは彼の鼻のかかった喘ぐような声が聞こえてぎゅっと拳を握った。

「──ねえもう、いい?」
「な、にが、あっ……!」

 食べちゃうね、彼が舌を一瞬離したことで舐められた首がすっと冷たい。しかしそれも一瞬のことでちくり、と痛みが走ればその冷たさなんて感じなくなった。
 幾度も彼の名前を呼ぶけれども止めてくれる気配はない。ごくり、と嚥下する音がすぐ近くで聞こえる。血を吸われている感覚。血管が縮こまって行くような、血を抜かれていくそれにしばらく耐えているとなんだか異なる感覚が唇を寄せられた場所から徐々に身体中に巡っていく。熱い、熱くて蕩けてしまいそうだ。

「ハルトくっ、も、やだあ! ひっ、あ……っ!」
 
 力が入らなくなって彼を拒絶していた腕がベッドに落ちる。情事中にも似た喘ぎ声が自分の唇が紡いでいる。
 彼の腕が裾から私の服の中へと。服を上へと押し上げて、それをゆっくりと緩慢とした動作で行うのだからたまったものじゃない。へそを撫で、ゆっくりと腹を、そして腰、背中、ホックを外しそのまま抱き寄せる。彼が触れたところが熱を持っていくようで熱くてたまらない。はあはあ、と息を乱しながら私はその動作に耐える。頭がぼんやりとして、触れられてもいない下腹部がきゅんと収縮している。胸の先端がとんがっていて、下着が擦れる度に小さな快楽を生み出してそれでまたもや喘いでしまう。
 じゅる、と彼は血を啜っている。ふっふっ、と荒い呼吸。横目で見た彼の目は、獲物にありつけた獣のそれで、自分が半ば犯されながら彼に捕食されているようで、それに背筋がぞくぞくとした。
 彼がはあっ、と最後に熱い吐息を吐き出して唇を離す。すっと牙が抜かれる。まだ身体が熱く、熱を持てあましている。こんな、血を吸われただけで、なんでこんなに興奮しているの。それが少しだけ恐ろしくて、だけれどその快楽の余韻で頭がぼんやりとする。

「気持ち、よかった?」

 赤く染まった頬に潤んだ瞳。まるで情事中の表情だ。息を大きく乱して、私を見つめる。私がそれに返事を返すことが出来ずに居ると、彼は放心してる、と艶やかに微笑んだ。
 ぎしり、ベッドが軋んで彼が前かがみに。もっと気持ちよくしてあげる、彼の手が腰から下へと伸びる。








20161031
吸血鬼の目には相手を魅了する能力あって、捕食できやすいようになってるし、吸血する際に分泌される唾液には相手に快感を与えて血を吸われたことで相手も弱ってるしその後の子孫を残すための行動にも合理的にできるってことで


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