++お前を食べるつもりなのさ/葛之葉雨彦



 良いものが手に入ったんだが、飲むか?、そう雨彦さんがにやりと口角を上げて私に見せつけたのは、瓶に入った日本酒で、めったに手に入らないものと来た。私は何の考え無しに飲みます!、と返答したのだ。

「でもどうしたんですか? それ」
「この前、隠れた名酒蔵に取材に行く番組に出演させて貰ったんだが、どうやら放送してから売れ行きが好調らしくてね。お礼だそうだ」
「また手に入りづらくなってしまう……」

 うう、と泣いたふりをしながらおちょこに入った日本酒をちびちび舐める。私自身アルコールにはあまり強くない。日本酒一杯ですっかりと酔いが回ってしまうぐらいには。対して雨彦さんは私よりもずっとお酒が強い。彼とお付き合いして結構月日が経つけれど、私は未だお酒を飲む席で彼が酔っ払った姿を見たことが無い。顔に出ないというのが正しいのかもしれないけれど。
 ほうれんそうのおひたしや油揚げのぱりぱり焼き、かぼちゃの煮物にからあげ、だし巻き卵、机の上に乗っているのはほぼほぼ酒飲みのおつまみである。先ほど雨彦さんと二人並ぶには少し狭い台所に立って作ったものだ。半分くらいは彼のリクエスト。からあげを一つひょいと摘まんだ雨彦さんは、旨いな、と咀嚼しながら言った。突然のことだったので、うまく味が染みているか不安だったのだけれど、彼の口にあったようで何よりだ。

「でも雨彦さん、明日久しぶりのオフですよね? 遅くまでお酒飲んでて大丈夫です? 何かご予定とか」
「何かあったら、酒瓶もって名前の部屋に来ていないな」
「なるほどー」
 
 それじゃあ今日明日はのんびり出来るわけだ。彼はアイドルということもあって、基本的に忙しいし、お休みは不定期。明日みたいにお休みが私と丸被りなのも中々無い。ぬくぬくお布団に入って、朝名残惜しく彼を見送ることも、見送られることもないんだなあ、と思うと幸せだ。
 顔が緩んでいる。すっかりと酔いが回って、彼の胸に背中を預けた。なんだ妙に甘えんぼうだ、と彼が笑いながら私を見下ろす。雨彦さんの身長は高いから、立っているときならず座っているときも、彼を見上げるのは一苦労だ。色素の薄い目が私をしっかりと捉えている。なんだか嬉しくて、ふふ、と笑ってしまう。

「雨彦さんの目って綺麗ですね」
「随分といきなりだな」
「あと雨彦さんの酔ったとこ、みたことないなあ」

 頬が赤くなってもいないし、目が潤んでいるわけでもない。私と同じくらいのペースで飲んでいるはずなのに不思議なものである。

「俺だって、人並みに酔っ払うこともあるさ」
「本当ですか? なんだかいつも私ばかり酔ってるみたい。雨彦さん、私を酔わせてどうするつもりなんです?」

 ほんの冗談のつもりだった。だけれど、目がばっちりと合った彼がにやりと笑いながら、背中を丸めて口づけを落としてきて、思わずびくりとする。唇を薄く舌でなぞって、こういうつもりだとしたら?、とくつくつと喉の奥で笑った。

「え、」
「明日は丁度良いことに二人休みだろう」

 彼が私の手の中のおちょこを取り上げて机の上に置いてしまう。すると今度は唇の中を割って中まで舌が入ってくる。ぬるぬるとしていて厚い。歯の裏をなぞり上げていくそれに背中がびくびくと震える。だんだん目がとろけてきた。

「お前さん、随分と飲み過ぎじゃないか? 酒の味がする」
「そういう雨彦さんは、全然お酒のにおい、しないですね」

 雨彦さんは、私の髪をするりと撫でながら、服の中に手を入れていく。触れる手がいやらしくて、ん、と声が上がってしまう。

「そりゃあ酒が入ると勃たなくなるからな」
「それって、」

 お酒飲んでなかったってことですか、それを言う前に再度口を塞がれる。
 そう言えば昔、本当に酔いそうになったら、気が付かれないように日本酒に見せかけて水を飲む、と彼が言っていた。その時に大切なのは、相手の目の離したときに水を自分のコップに注ぐこと。そうしないと中の水の量が減ったときにお酒を注がれてしまうから、と。騙された……、と半ば呆然としていると、彼が、酒が入るとお前さんはずっと素直になるな、と囁いた。狐に弄ばれたみたいだ。









お題箱より。アダルティな雨彦さん。
20171208



- 46 -

*前次#
ALICE+