++求愛行動/古論クリス




「……雨彦、想楽、少し相談をしたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか」

 妙に難しい顔で切り出した古論に、同じユニットのメンバーたる二人はなんだなんだ、と形式ばかりに尋ねた。彼がこのように神妙そうな顔で相談してきたことは数知れず。どうせ今回も海に関わることなのだろう、と、なあなあに思っていたのだが、彼が名前のことで、と自身たちのプロデューサーの名前が彼の口から発せられたことで、一気に心地が覚醒するようだった。思ってもいない名前が出たので、二人とも顔を見合わせて、少しばかり驚いたようだ。
 次の撮影に向けてのミーティング中。プロデューサーである名字は、出計らっており、今は居ないはずだ。古論は聞き耳を立てて彼女が居ないことを確認して、そうして問題発言をした。

「実は、彼女に何度かプロポーズをしているのですが、一向に色よい返事が貰えないのです」

 言い難い緊張感に思わず喉をお茶で潤していた二人が、ごほごほと咽せた。それも落ち着いて来た頃に、北村がはい、と小さく手を上げる。それに古論はどうぞ、と発言を促した。

「僕、そもそも名前さんとクリスさんがお付き合いしてたなんて初耳なんだけど」
「俺もだ北村」

 315プロで恋愛禁止との文言が発せられたことは無いものの、相手が相手である。自身たちをプロデュースするその名字は、真摯でかつ真面目な女性であり、今まで一度たりとも担当するアイドルと、そう言った噂話さえ流していたことは無かった。

「いえ、お付き合いはしていません」
「え?」
「おいおい古論。流石に一目惚れで告白が許されるのは交際までだろう? 結婚ともなったら、きちんと順序踏む必要があるんじゃないか?」
「うわ、雨彦さんがまともな人っぽいこと言ってる」
「馬鹿言え。俺はまともだ」
「しかし彼女とは初対面というわけではなく、もう既に双方の手の内すら知っているような仲ではないですか。私は彼女と、恋人という精神的および法的にも不確かな関係では無く、夫婦という確かな関係でありたいのです」
「その言い分も分かることは分かるんだけどねー」

 こうも頑なであると、彼を説得するのも一苦労だ。その理由が正当なそれに聞こえて、北村や葛之葉さえも考え込んでしまう。
 確かに古論の名字に対する接し方というのも、他の人とは異なるような気がしていた、と思い当たる節が多々あった。彼女が重い荷物を運んでいればそれを手伝っている場面にも多々あった。彼女が何やら悲しそうな時は慰めていたこともあったし、それに彼女が撮影終わりにディレクターや監督に不必要に絡まれていたときは助け船を出すこともあった。それは彼女が女性であるからであり、信頼のおけるプロデューサーであるからだと、北村も葛之葉も思っていたのだが、事実は異なるようで、古論は一人の女性として彼女を見ていたのだ。
 ふう、と北村と葛之葉が息を吐いた。

「でもね、クリスさん。流石に名前さんだって、いきなりプロポーズをされたら、困惑というより分からないと思うよ。だってお付き合いもしてない人からいきなりプロポーズされても、僕だったら冗談とかからかいにしか思えないし」
「そ、そういうものなのでしょうか……」
「婚姻関係というのは、自分たち当事者だけのことでなく、周りの親族を巻き込む、言わば横の繋がりが出来るということだろう? 彼女の両親だって、いきなりぽっと出の男に娘を渡さないだろうし、世間一般の通り、順序を踏んで交際から始めるのが無難じゃないか?」

 彼女から返事が貰えなかったのは、私のアプローチの仕方に原因があったのですね……。古論はしゅん、と項垂れた。
 すっかり気落ちした古論に、北村がえっと、と取り繕うように尋ねた。
 
「ちなみに前回はいつ、プロポーズしたの?」
「先日の、水族館での撮影の際です」
「結構最近だね?!」

 北村が驚いたように声を上げた。それは気が付かなかった、葛之葉もまた同意する。
 ばん、と車のドアが閉まる音がする。そのあと何分か立つと、とんとん、と階段を登る音がする。それに三人はしん、と静まり返った。お疲れ様です、がちゃん、とドアが開き名字が現れる。沈黙する三人に首を傾げながら、何か煮詰まったことでも?、と彼女が尋ねた。古論はぶんぶんと首を横に振り、なんでもありません、と笑顔で答える。こうやって古論からの告白を聞いたあとであると、彼らも古論の喜びようが手に取るように分かった。

「名前、何か手伝うことはありますか? 確か衣装の確認のために出計らっていたのでしょう? 持ち物があったら持ちますよ」
「え、そんないいですよ。お三方ともミーティング中でしょう? お邪魔になりますし」
「男手があった方が楽でしょう? それにすぐ終わりますし。……いいですか?」

 二人がこくりと頷く。行こうか、とのっそりと腰を上げた。
 今日の名前の髪も、まるで夜の海のように落ち着きがあって滑らかなのですね。前を歩く名字と古論。古論が愛おしそうに彼女のことを見ながら、そう言葉を放ったので、後ろの葛之葉と北村は思わず目を見合わせた。

「たぶんそういうこともあるよね……」
「俺も同意する」

 何かおっしゃいました?、と古論はくるりと後ろを向いた。ええと、ああ、と二人は言葉を濁して、また後で、と北村が言うと、そうですか、とまた前を向いて彼女と談笑する。
 彼の愛の囁きは、あまりにも癖がありすぎる。







20171208
お題箱より。古論クリスに熱烈に口説かれるお話


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