++そうやって人をころすんだ/天ヶ瀬冬馬


 アイドルという職業柄、キャラ作りをするという人も居ることには居る。俺たちもキャラ作りというか、いささか誇張しすぎた性格を押し出した時期もあったが、それも過去の話だ。今はわりと自然体でファンの皆の前に出ていると思う。名字名前は、いわばキャラ作りをしている、現在人気急上昇中のアイドルユニットのメンバーの一人である。

「――天ヶ瀬さん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 今回一緒に仕事をするということに当たって、名字さんのことを色々と調べた。もちろんこれまでにバラエティ番組で共演させてもらったことはいくらかあるが、流石に二人で撮影のモデルとなるというのならば話は別だ。
 名字名前、年齢は俺より二つ上。現在都内の大学に通っている大学生で、学業の傍ら芸能活動もこなす多忙さだ。大手事務所のオーディション選考で特別賞を受賞した逸材で、歌やダンスはもちろん、その愛らしいルックスからたちまちグループの中核メンバーとなった。ライブやファンサ、テレビ番組では小悪魔的な言動や仕草が目立つものの、実際は清楚で地味めというか、いつもテレビで見る化粧をした姿と普段の姿を見ると、本当に彼女なのかと疑ってしまう。こうやって楽屋周りやスタッフへの気遣いをするということで業界では有名で、俺もバラエティに出演したときに、撮影中ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、と頭を下げられたのも記憶に新しい。

「――名字さんはこういうの慣れてますか?」
「一応、こういう撮影のお仕事は何度かさせていただいたので。もちろん天ヶ瀬さんより場数は踏んでいないと思いますが……」
「いやいやそんなことないっす。俺、こういう二人で撮影すること慣れてないんで、足りないとこあったら名字さんに教えて貰おうかって思ってて」
「私なんてそんな……。でも、撮影のコンセプトがこういうコンセプトな以上、際どいポーズを求められるかもしれないですね」

 名字さんが少し目を伏せながら言った。白い肌にピンクのチークが映える。ぱさぱさとした黒いまつげにアイラインのばっちり入った目元は彼女のぱっちりとした目を強調させていた。二人とも衣装はシンプルなで、色は黒で統一されている。差し色として小物や化粧に深い赤が入っている。今回の撮影は化粧品メーカーの新色リップのプロモーションだ。雑誌に何枚か写真が載るほか、CMとしても使われる。化粧品のCMに男である俺が堂々と起用されると言うのも珍しいが、それも企業側の思惑があるのだろう。その今回発売されるリップというのも、大きく分けて大人を演出したものと可愛らしさを演出したものの二つがあり、そのイメージに沿った画を撮りたいのだという。今から行う撮影は大人らしさを演出したものだった。

「少し顔が近くなってしまうことがあるかもしれません。大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫です」

 よろしくお願いします、と撮影場所に入る。深い赤色で色味が統一されたセットが中央に置いてある。真ん中にソファひとつ、どうぞ、とスタッフに誘導されてソファに座る。
 じゃあ名前ちゃん冬馬くんを弄ぶような、大人な女性って感じのことしてくれるかな。何個か案はあるんだけど、二人の意見が聞きたい。カメラマンがそんなことを言ったので思わず目を瞬かせてしまう。あまりにもざっくりとした説明すぎるだろう。横目で彼女をちらりと見れば、彼女の方も困惑しているらしく、少し悩んだ素振りを見せたが、すぐに打開策を見つけ出したらしい。はい、と返事をする。

「天ヶ瀬さん、ごめんなさい。でも撮影なので」
「いやいいっすけど……」

 彼女がぐいっと俺のネクタイを掴んだ。そのせいで強制的に彼女の方を向かされる。背もたれに寄りかかる形になる。きっちり手首のボタンが閉まっている中、彼女は徐にボタンをぷちりと外してするりするりと蛇が肌に這わせるように俺の手首から手を掴んで指を絡ませる。撮影のために綺麗に整えられた爪は、リップの色に合わせた色だ。その画いいね、カメラが回される。その煽情的な姿に思わず動揺して喉が鳴る。そのまま俺にのしかかるように馬乗りになった彼女は、腰に腕を回して、とそっと耳打ちした。その通りに腰に手を添える。細くて滑らかな曲線が視界の中に入ってくる。ぐいっと俺の顎を掴んだ彼女は、ちょっと視線反らして私の肩ぐらいを見て、と言った。そのまま彼女の白い肩に視線を移す。冬馬くんももうちょっと動いて、とカメラマンの指示が飛ぶ。滑らかな動作に一挙一挙周りを引き付ける所作に、このままじゃ食われると思った。主役は俺と彼女のはずなのに、このまま何もせずにいたら彼女に良い所を全部取られる。それが悔しくて、腰に腕を添えながら、今度は俺が彼女を押し倒す形に形勢逆転する。少し驚いたように目をまん丸にした名字さんの表情がしっかりと見えた。しかしそれもつかの間のことで、すぐに良い表情をしてくる。負けてらんねえ、にやりと口角を上げる。





お題箱より。冬馬と積極的な小悪魔系アイドル主ちゃんのお話
20180219


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