++目線の先/葛之葉雨彦



「雨彦さんあれ取れます?」
「あれってどれのことだ?」
「あの青いファイルなんですけど、」
「青いファイル? ああこれか」
「あーそっちじゃないです。もう一段上のもうちょっと右側」
「……青いファイルって言ったって、ここの棚ほとんどそれだろう」

 事務所の一角。昨年の収支の確認をしなければならないと思い立った私は、すっかり失念していたのだ。この事務所、私の手に届かないものが多すぎる、と。

「それなら仕方が無いな。名字、こっちに来てくれ」

 何を隠そう、私の身長は平均女性のそれよりだいぶ低いのだ。本当に認めたくないのだけれど。事務所にはスタイルのいい人、もとい日本の平均男性の身長をゆうに越えるような人が何人も居るから、目を合わせて話をするのも首が疲れるし、あと車の運転が一番大変だ。最大限まで前に座席を引いて、座高が足りないので座布団を下に重ねる。
 雨彦さんの言葉のままに隣に行く。するといくぞ、と言われたのですぐに見当が付いて慌てるけれど何もかもが遅い。いやいや待ってください、と言うとこの方が早いだろう、と彼が言い、そのままひょいと私を抱き上げた。

「ありがとうございます……でも、し、心臓に悪い……」
「倉庫にわざわざ脚立を取りに行くのも手間だろう」
「そうですけど、」
「さあ俺はどっちに動けばいいんだ?」

 雨彦さんの体感してる目線ってこれぐらいなんだなあ、と思いながら指示を出す。さすが自販機越えの男である。
 あーそこでストップです、と声を上げて、重いフォルダを棚からゆっくりと取り出した。

「──おはようございま、……僕たち邪魔だった?」

 この声は想楽くんだ。がちゃんとノブを回してクリスさんも一緒に入ってくる。ガラス越しに見える影が余りにも大きいのでどなたかた思いました!、とクリスさんが屈託なく言った。

「ああ邪魔だな。折角の逢瀬を」
「こんな公衆の場でいちゃつかないでよねー」
「二人とも冗談は止してくださいねー。雨彦さん、これで間違いないので下ろしてください」

 はいはい仰せのままに、と気の抜けた返事である。とん。と地面に下ろされて、見慣れた景色に戻る。レジェンダーズの皆さんはなんだかんだ言ってみんな身長が高いのだ。自販機2名に、男性の平均身長プラス4センチが1名。見上げるのも一苦労である。

「圧迫感すごいんですよね……お三方とももう少し縮みません?」
「縮むってどうやって縮むんだ」
「こう、イリザロフ法とかで」
「それって何?」
「骨を人為的に折って、ギプス入れてみたいな……」
「大変痛そうですね……」


 


お題箱より。低身長Pと雨彦
20180222


 



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