++本日の世界もごちゃまぜ/舞田類




「Hi! 名前ちゃん!」

 その声に思わず身構えると、My heart is broken、ちょっと傷つくなあ〜、とのこと。いや今までの彼の行動を考えて欲しい。山下さんのお誕生日に彼がドア先で顔面ケーキの準備をしていたところに運悪く私を山下さんと勘違いして顔面にケーキをお見舞いされたり、仕事に集中していたら私の髪の毛で遊んでいてぐしゃぐしゃになっていたり、彼に筆箱を貸したら誤って持って帰っていたり、とにかくたくさんの前科があるのだ。しかも今の舞田さんは満面の笑みで、正直身構えるなら明らかに今しかない。

「舞田さんが笑顔のときは大体悪いことしかないじゃないですか」
「why? それは名前の思い込みだよ!」
「ぜったい違いますもん……」

 それ持つよ、と持っていた段ボール箱を取り上げられる。両手が塞がっているから、倉庫の鍵締めのためにもう一度階段を上り下りするのも手間だなあと思っていたから正直ありがたい。私はお礼をして、鍵をがちゃりと締める。
 実はアルバイト先でバイト募集してて、と山村くんに誘われたのが一年ほど前。まさか彼がアイドルの事務所でバイトをしていたなんて思いもしなかったから驚いた。こうも男性所帯だと、一人女の私を雇うのもどうなんだろうなあ、と思っていたのだけど、面接をしてその場ですとんと合否が決まったのだ。それからは事務所の皆さんにはとても良くして貰っている。

「舞田さん何のご用だったんです? わざわざ倉庫まで」
「用が無かったら、名前ちゃんに会っちゃいけないのかい?」
「それ顔が良いから許されてる台詞ですからね」

 じゃあオレはhandsomeってこと?、と彼が言うので、そうだと思いますよ、と、なあなあに返答する。つれないなあ、と舞田さんが口の先を尖らせた。
 がちゃん、と扉を開けて、彼に先に入って貰うと、目の前の光景に圧倒されて思わずうわあ、という声が出た。天井まで積み上げられた段ボールの山に、ソファには窮屈そうに山下さんと硲さんがちょこんと座っている。いやいや圧倒されている場合じゃ無い。この事務所は、来客用のスペースと事務処理用のスペースを兼ねているので、こんなに段ボールが裸のまま積まれていたら困る。今日はもう来客は無いはずだけれど、予約が無いと言うだけで突然訪問があるかもしれない。これは一体なんなんだ、どうすればいいんだ、とさあ、と血の気が引く。

「え、と、これって……」
「俺たち、この前食品会社のプロモーションしたでしょ? それのお礼というか、良かったら事務所の皆さんで、だってさ」
「私聞いていないんですけど……」
「舞田くんがプロデューサーには伝えたはずだったのだが……」
「Sorry, sorry、すっかり忘れちゃってた!」

 うわあすごいと、漫画みたいに積まれた段ボールを見る。よく見ると全て同じ種類のインスタント食品ではなかった。しかし何週間、いや何ヶ月、何年分なのだろうか。一日三食食べたとしても到底消費できるような量では無い。

「舞田さんがにこやかなときって大抵こういうことになりますよね……」
「ごめんって! オレも届いたの見てびっくりしたよ!」

 とりあえず段ボールは箱が邪魔だから全部畳んで、あとは一人で持って帰れるような量じゃないから事務所の皆さんにもお伝えして、プロデューサーさんにもこういうことがありましたよと連絡を入れなければならない。気が遠くなる。

「本当にこの事務所に居ると、毎日がお祭りというか、」
「それって褒めてる?」
「4分の1くらいは……」

 私を探していたのも、ご機嫌を取るように荷物を持っていただけたのもこういうことかあ、と半分呆れている。本当にこの事務所に居ると、色々と事に欠かない。







お題箱より。舞田くんと事務員 
20180302


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