++食べちゃうぞ/北村想楽





「想楽くんブラはネットに入れてって言ってるじゃん!」
「ねえ名前って恥じらいって言葉知ってる?」

 洗濯機の中で他の衣服と混じってぐるぐるに捻れているブラを見て、あっ、となる。おしゃれ着を洗っていたからまだいいけれど。でも型崩れしていたらちょっといやだ。新しく買ったばかりのものだし。
 台所に立って料理をするのは想楽くんだ。何でもこの前出演したお料理番組で作った料理が美味しかったから私にも食べさせたいらしい。想楽くんは実家を離れてお兄さんと二人暮らしをしているということもあって、料理もそれなりに出来る。うそ、私よりも上手い。

「知ってるよ−」
「だったら普通、彼氏に下着洗わせる−?」
「裸見せてるのにそれ気にする?」
「そうだけどさあ……」

 洗濯機の中の洗い終えた服を腕いっぱいに抱えてベランダに向かう。
 想楽くんとは一年くらい前から付き合い始めた。もともと大学が一緒で、一番最初に出会ったのは、入学したてのお昼休みの時間。昼食を食べるところがどこもかしこ人がいっぱいで、学校のベンチに相席させて貰ったのがきっかけだった。そこではちょっと話をした。何年生だとかどこの学部だとか。そこからちょくちょく会えば会釈くらいはしていたのだけれど、その関係が進展したのは、私が事務所の簡単なアルバイトを始めて一年くらい経った後だった。新しくアイドルとしてスカウトされてきたのが彼で、両者共々うわあと仰け反ったのは今でも忘れない。世界って狭いなって思った。
 なんだかんだで仲良くなって、学部は違うけど被っている授業も何個かあって、レジュメやらノートやらをお互いに融通しあうようになった。それからは恋人という立場に落ち着くのも中々早かったような気もする。想楽くんはお兄さんと二人暮らしだし、学校からは私の部屋の方が近いので、必然的に私の部屋に集まるようになった。そうなると彼の私物が増える。私の決して広くない部屋が想楽くんの持ち物で狭くなっていくのも随分と早かった。

「僕の自分で干すから、干さなくていいからね」
「裸見てるのに今さら下着ごときでうだうだ言う?」
「それとこれとは話が別でしょ。ていうか名前、もしかしてその格好でベランダ行くの? 横着しないで着替えなよ」
「これから家でだらだらするだけだし着替えたくない」
「下だけでも着て、スウェットは?」
「今洗濯してて無いもん」
「面白半分に誕生日にくれたジェラピケ」
「やだ」
「自分が嫌なもの人に贈るかなー。交換ね、名前はキッチン。鍋にお肉入れて炒めてて」

 よくあるワンルーム。ベッドが部屋の隅に一つ、あとは机とテレビと棚。一人でも狭いのに二人だともっと狭い。昨日もぎゅうぎゅうになって二人で眠ったシングルベッドに洗濯物を置いて、えー、と抗議する。手を洗ってしっかり拭いた想楽くんが部屋の中に入ってくる。

「想楽くん過保護すぎない? 着てるじゃん服」
「ねえ名前、まさかいっつもこんな格好でベランダで洗濯物干したり、コンビニ行ったりしてないよね」
「まあ」
「まあ、何?」
「あー、声が怖い」

 部屋着も天気がいいこの際だからと全て洗ってしまったので、彼のTシャツを適当に引っ張り出して借りているのだ。横の二人が大きいせいで彼は華奢に見えるかもしれないけれど、成人男性の平均以上には彼も身長があるから、シャツを借りると大きいのだ。ちょっと丈が短いワンピースくらいにはなる。

「僕だって男だし、」
「はい」
「そんな格好でうろちょろされて、何も感じてないと思う? 今ここで押し倒されたく無いならキッチン行って」
「はーい……」

 こういうときの想楽くんは有無を言わせない力がある。まあ炒めるだけぐらいなら出来るか−、と面倒くさく思っていると、彼がぺろっとシャツを捲った。水色だ、とイタズラっぽく笑う。そもそもお風呂一緒に入ったし、ブラもショーツも持ってきたの想楽くんだし、そんなん知ってるじゃん。たまに想楽くんが分からなくなる。





20180406
北村想楽と彼シャツをする同い年の事務員バイトの彼女
北村想楽とまったりするお話


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