++理由さがしのかえりみち/秋山隼人





「えっと、名前ちゃん」
「はい」
「あの、えっと、」

 手繋ごう?、なんて言えるはずがないよ!、心の中で頭を抱えた。
 放課後、テスト期間が近いとこともあって部活は休み、まだ日が高い内に帰っているのもなんだか不思議な気分だ。
 恋の歌ねえ、と頭を悩ませたのはつい昨日皆と部室で会ったときだった。ハイジョーカーとしてアイドル活動をして結構経つ。その間に色んなお仕事をさせて貰ったけど、今度は来期の月9ドラマの主題歌ということで、曲作りについても指定があった。ドラマが高校生の青春を描いたものなので、甘酸っぱくてポップなラブソングにしてください、と。普段はジュンと俺が何となくメロディラインを決めて、メンバーで形にしていくんだけど、今回のポップな曲調は俺に適任だって話で、とりあえずデモは俺が作ることになって、歌詞も皆で良い感じの言葉を見つけてこよう、ということになった。部活の休憩中、そうなってくると自然と話題に上がるのは恋愛のことで、初恋の人のことであったり、今までの恋のことだったり、皆色んな恋をしてるんだなって思いながら聞いていると、ハヤトっちはどうっすか?、とシキが尋ねてきてちょっとびっくりした。まさか話を振られると思わなかったのだ。俺は無いかな、と言うとそんなこと絶対ないっす!、好きな人の一人や二人居るっすよね?!、と洗いざらい白状させられて、今に至る。
 同じクラスの名字名前ちゃん。今の席は斜め前、窓際の三番目の後ろ。普通の女の子だと思う。お昼休みのあと、よく眠そうにしている姿がかわいい。あと体育のときにもたもたと後ろを走っている姿だとか、おにぎりを頬張る姿だとか、何気ない日常的な姿が可愛くて可愛くてしょうがないなって思う。いつの間にか彼女を視線で追っていて、俺恋してるんだなって思った。その話をすると、あれよあれよという間に協力してやるよとハルナが根回しをして、こうして一緒に帰ることになったのだ。手ぐらい繋げよ?、だなんてハルナが言ったことが頭にこびり付いている。

「今日天気いいね……!」

 馬鹿! そんなこと言うために口開いたんじゃないだろ俺! 頭を抱えに抱える。ハルナだったらスマートに、手繋いでもいいか?、なんて言えるかもしれないけど、付き合ってもないのに、いや付き合っててもそうだけど俺には無理だって! 
 名前ちゃんはふふっと笑った。夕焼けで光が反射して、黒髪がきらきらと透けている。なんかすごく、綺麗だなって思った。

「隼人くんそれ3回目だよ」
「嘘?!」
「ほんとほんと」

 名前ちゃんは俺の焦った声を聞いて、またもやくすくすと笑った。名前ちゃんと一緒に帰っているというのに全然話題が思いつかない。こういうとき女の子と何を話すんだろう。趣味、ギターとゲームが好き?、今言うことか? 部活のこと? 部活のことを話すにはまず4人のことを紹介しなくちゃいけない、駄目だその紹介だけで終わってしまう。私の家あっちなんだ、と名前ちゃんが指さす。どうしようせっかく一緒に帰ってるのに、このままで終わるのは嫌だ。

「あ、あのさ!」
「どうかした?」
「あの、手、繋いでもいい、かな?」

 名前ちゃんがきょとんとした顔で俺を見ている。あ、これ駄目なやつかも。涙がじわりと出そうになる。そんな付き合ってもないのに手繋ぐなんておかしいし、そんな好きでもない男と手繋ぐなんて嫌だよな。

「あっ、ごめんね! そんな付き合ってもないのに手繋ぐなんておかし……!」
「いいよ」
「へ?」

 名前ちゃんが俺の手を握った。すごく柔らかくて、小さい気がする。あと意外と冷たい。俺はと言えば名前ちゃんが手を握ってくれたことが信じられなくて、夢見心地で、なんだかだんだんと冷や汗が垂れてきた。俺の手絶対熱いし汗でやばいことになってる。ちょっとだけ沈黙が続く。どうしよう何か話をしなきゃ。そう思うごとに名前ちゃんがあっち、と指さした道が近付いてきて、どうしようも出来ない。

「隼人くん」
「は、はい」
「少し遠回りしたいです」

 びっくりして俺より少し小さい名前ちゃんを見ると、俯きがちで、耳がほんの少し赤くなっていた。もちろんいいよ、と返答すると良かった、と名前ちゃんが微笑んだ。
 一緒に帰ればなんか良い歌詞とかメロディ思いつくんじゃないかな、とナツキが言ったのを思い出す。そんな名前ちゃんと一緒に帰ったことを歌にしたら、歌うときずっと思い返しちゃうじゃん……! もう駄目だ俺、幸せすぎてしにそう。





20180514
お題箱より。秋山隼人君との両片思い


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