++あまりにも卑怯/柏木翼


 おいで?、じゃないんだよ〜!!!! あまりにもいたたまれなくて体育座りをした膝小僧の中に顔を埋めた。どうしよう何回見ても見慣れないし信じられないほど心臓がどきどきする。三分割をした画面の右側を直視してしまって声にならない声が出てしまう。見せつけるように意地悪な表情をしているのも、動作の一つ一つが艶やかで目が離せなくなってしまうのも卑怯だ。
 私は唸り声を上げながら、リモコンに手を伸ばしてもう一度最初から見る。始まる直前、歓声がぱっと鳴りやんで流れ星の落ちる音が響く。そしてイントロが大音量で流れだすのと同時に黄色い歓声が会場をわっと包み込んだ。あの日私は何とか取ったチケットで現地参戦をしたのだけれど、あまりにも衝撃的すぎて正直何も覚えていないのでこうやって映像化してくれたのが嬉しい。だけれどその映像でさえも、平常心で見ていられなくて、現地で見た時よりも更にカメラワークが良くなって、の一挙一動を見逃さないような作りになっていて、記憶が飛びそうだ。見てはいけないものを見ているような気がして、唸ってしまう。そこに後ろから抱き着かれて情けない悲鳴を上げてしまった。

「――名前」
「つ、翼くん」
「また見てるの?」

 ちょっとだけ妬けるなあ、と私の肩にぴとりと頭を乗せた彼が言う。シャンプーのいいにおいがした。翼くんのふわふわとした髪の毛が頬にかかってくすぐったい。

「あっ髪の毛生乾きだよ。ちゃんと乾かさなきゃ」
「あれ、乾かしたと思ったんだけど」
「駄目だよ、アイドルなんだもん。髪の毛のお手入れも念入りにしなきゃ」

 乾かしてあげる、とテレビを消して、お風呂場からドライヤーを持ってくる。ソファ座って、と言えば、翼くんは私より頭一つも二つも高い身長を縮こませるようにソファに腰を下ろした。温風にして、真正面から彼の髪の毛を乾かす。
 翼くんは可愛い。もちろんかっこいい時もあるけれど、可愛いと思うときの方が断然多い。ご飯を美味しい美味しいと頬張る姿はリスみたいで可愛いし作りごたえがある。あと目が垂れ目なところも可愛い。オレ大きくて、と申し訳そうに腰を屈めるのも、笑っている表情もお日様をぎゅっと閉じ込めたようで可愛い。とにかく私の前では可愛い恋人なのに、カメラを目の前にするとどうしてあんなに、なんというかえっちになるのか分からない。不思議だなあと彼の顔を見ていれば、その視線に気が付いたのか、翼くんがあんまり見つめないで、とはにかんだ。本当に可愛い。

「翼くん可愛いのになあ」
「それ褒め言葉?」
「うん。いつもの翼くんとね、画面越しに見てる翼くんとのギャップがすごくてたまに眩暈がする」
「オレ、そんなにギャップあるかなあ」
「あるよ、だっていつもの翼くんはふわふわしてて優しくて、可愛……」

 できた、とドライヤーの電源を切ったところで、彼がくいっと私の手首を大きな手で握る。腰を抱き寄せて、可愛いだけ?、と手首に触れるだけのキスをした。しゅわしゅわ、と頭から湯気が出ているような気さえしている。薄い唇の口角を上げて、意地悪にこちらを見る姿は、先ほど画面で見た翼くんの通りで、一気に顔が赤くなる。それ禁止!、と彼の胸板をぐーでパンチすると、痛いよ名前、と朗らかに笑った。心臓がもたなくなるから、不用意にそんな表情しないでほしい!





20180520
お題箱より。不意打ちで大人の男感を見せてくる・かっこいいと思ってるけど恥ずかしくてつい、かわいい・優しいといってしまう夢主とカッコいい・男らしいといってほしい翼くんで、彼女がムンナイのライブBDを見てるところ見た翼くんとその後。



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