++SSまとめ/sidem


真昼の恒星/山下次郎

 プラネタリウムというと恋人たちの巣窟と言った認識があったが、実際の所本当にそうなのである。暗闇に紛れてキスしたりだとか手を繋いだりだとか、囁き言葉を交わしたりだとか。
 やっばー、と内心冷や汗だらだらで次郎さんに視線を送る。この甘ったるい雰囲気にも流石に彼も気が付いたようで、たはは、と苦笑いをした。そして何を思ったのか、背中縮こまらせて、私に触れるだけのキスを落とした。ざらりとした髭の感覚が頬に残る。それにびっくりして、くたびれた彼のシャツの襟元をガッ、と引っつかんで小声で話す。男性のナレーターの声が予想以上に大きくて、普通に話したら絶対に届かない。
「何してるんですか……!」
「え、今のキスのおねだりじゃなかったの?」
「今のは、夏休みの昼間の恋人率やばいですね、っていう視線ですよ」
「名前ちゃんもこういうことするんだなって思っちゃってたよごめんね」
 案外あの苦笑い、照れ笑いだったのかも。恥ずかしそうに笑う次郎さんの、無造作に置かれた手に、自分の手を置く。これならまああからさまじゃないし、と思いながら居ると、彼がぎゅっと握り返してくる。なんか普通のデートって感じがしていいねこれ、ぽつりとした呟きが聞こえてくる。



午前三時、流星群/翔太と大吾

「ねえねえ名前さん! 明日の明け方ぐらいから流星群来るらしいんだけど、事務所の屋上で見ちゃ駄目かな?」
「んー、何人?」
「二人。僕と大吾さん!」
「仲良いねえ。んー良いけど、二人だけ居るのも防犯上ちょっと危ないし、私事務所にいることになるだろうけど良い?」
「え、名前さんわざわざ夜にここ居るってこと……? それすっごく悪い気がするんだけど……」
「いいのいいの。どうせ今日仕事終わんなくて残業だし、終電の頃に終わらなさそうだしね」
 という会話が昨日午後二時。幸い事務所にはシャワー室も給湯室もあるから、正直泊まるには苦労しない。
 二人は早めに仮眠に入って、私自身の仕事も一時くらいには終わったし、ソファで眠る二人の幼い表情が可愛いなあと思いながら、私もシャワーを浴びて仮眠をすること2時間ほど。ガタガタ、という物音が聞こえて目が冴える。倉庫から持ってきたいつもの簡易マットレスだったし、眠りは浅かった。んん、と唸ると名前さん起きたんか?、という大吾くんの声が聞こえて生返事をした。
「……んー、今何時」
「三時半じゃ。もうそろそろ空が白む」
「よく起きれたね……」
「大吾さん朝強いからね」
 よくよく見ると、お菓子を持っているし、あとは事務所の倉庫に眠っていた天体観測望遠鏡まで持っていて準備が良すぎる。なんであるって知ってるんだろう。
 名前さんも行く?、という翔太くんの言葉にうあー、と布団に顔を埋めていると、翔太並じゃ、という大吾くんの声が聞こえてきて、そんなことないよー、と掠れた声で返事をした。
「……行こうかな」
「そうこなくっちゃ! 大吾さん、名前さんの右肩持って」
「おう」
「そんな逃げないってばー」



魔法なんてないもの/天道輝
 世の中代用しても良いものと悪いものがある。牛乳を低脂肪乳にするのは良い。あと生クリームにするのも、豆乳にするのも、大体元の味に近いような味になる。ただ牛乳と書いてあるレシピをヨーグルトに変えてしまったら、それはもとのレシピとはまるきり違うものになってしまうのではないか。私はそういう代用品を見極めるのが大の苦手なのである。
「っく、ははは」
「輝くんあんまり笑うと怒るよ」
「生クリームとシナモン……」
「だってヨーグルトとカレー粉無かったんだもん」
「肉漬けるよりデザート作った方が旨い組み合わせだろ、これ」
 一口食べた手羽元を掴みながら、くつくつと笑う輝くんにむっとした。輝くんには分かんないよ。いっつもおしゃれで美味しい料理を冷蔵庫の残り物から作れる輝くんには。
「名前ってたまに変なことするよな」
「だって同じ乳製品じゃん……」
「シナモンは?」
「スパイスじゃん……」
「っく、ふは、」
「だから笑わないでって!」
 デザートとして食べれば美味しいよ、これ、と堪えながら言う彼の言葉に機嫌が直らない。それタンドリーチキンとして作ったのに。



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